恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion

ふいうち

その日、リオはギアステーションのベンチに腰掛けながら、悩んでいた。膝の上にはモノズが構って欲しそうにリオの服の裾をかじかじと噛んでいる。時折見兼ねたカイリューがモノズを抱き上げ遊んでやるのだが、しばらくするとモノズはまたリオに近寄っては裾を噛む。ここ数十分、この繰り返しだった。

「リオさま?」
「んー…あ、ノボリさん。こんにちは」

ゆっくりとした動きで顔を上げたリオは、ノボリの姿を確認するとまたすぐに視線を落とし考え事を始めた。相変わらずマイペースなリオに多少困惑しながら、ノボリは再びリオの服の裾を噛もうとするモノズを抱きかかえた。遊んでくれる対象が変わり嬉しそうなモノズは、すぐにノボリの黒いコートを噛もうとノボリに向き合った。ノボリはモノズの頭を撫でると、再度リオの頭に言葉を降らす。

「リオさま、モノズが可哀相ですよ」
「あ、すみません!モノズ、おいで」

ノボリのコートの襟を齧るモノズに気づき、リオは慌ててノボリからモノズを受け取った。モノズはやっと主人に構ってもらえたと嬉しそうにすり寄る。モノズを撫でながら、体をかすかに横へずらすと、それを合図にノボリはリオの隣に腰かけた。

「考え事ですか?」
「えぇ…やっとモノズを捕まえたんですけど、技構成がまとまらなくって」

考えて連れまわしてる間に、すごい懐いてはくれたんですけど。そう苦笑気味に言うリオと、やはり服を齧ろうとするモノズ。その様子を見、ノボリはいつもの無表情な顔を少し崩した。あ、と小さく声を漏らしたリオは、同時に顔に熱が集まるのを感じた。

「どうかなさいましたか?」
「えっ、な、なんでもございません!」
「ですが、いつもより顔が赤いですよ。熱でもあるのでは…」

あからさまに挙動不審なリオを不思議に思ったノボリは、白い手袋をはめたままの手でリオのおでこにそっと触れた。さらに赤くなるリオはあわあわとしながらモノズを抱く腕に力を込めた。

「熱、はないようですね」
「ふぁ……」

ほっと安心したように息をつくノボリに、一気に脱力するリオ。モノズが心配そうに見上げてくるのに頭を撫でることで大丈夫だと伝える。
普段クダリとは対照的なヘの字のまま動くことのない表情が、ふとした時に少し柔らかくなる瞬間がある。初めて会って話して以来、リオはその顔を見る度に照れくさいような、恥ずかしいような感情に襲われてしまうのだ。

「か、考え事してたから頭ショートしちゃったんですよ!多分!」
「そうですか?」

慌てて取り繕うリオに、不思議そうに首を傾げるノボリ。あぁ可愛いなこの人!もはやあながち嘘ではなく頭がショートしかけているリオだった。

「考え事と言えば、わたくしも最近ひとつのことに頭がいっぱいなのです」
「悩み事ですか?私でよければ聞くくらいできますけど…」
「えぇ、実は先程リオさまに声をかけましたのは、聞いてほしいことがあったからなのです」
「どんとこいです!」

ノボリが頼ってくるなんて珍しい。それほど信頼してもらえているのかと思うと誇らしくさえあった。モノズを抱え直し、さぁどうぞ、とノボリに向き合ったリオ。ノボリはにこりと笑うと、布越しにリオの手を包むように握った。へ、と固まるリオに、言葉を紡ぐ。

「お慕いしております、リオさま。朝も昼も晩も、あなたさまのことをずっと考えておりました」

真っ直ぐと目を見つめられ、怯むものの視線を外すことは叶わなかった。突拍子のない告白についにショートした思考が戻るころには、リオはオクタン並みに顔を真っ赤に染め、意味の成さない言葉を零すだけだった。







(110415)


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