瀬戸内物語 | ナノ



瀬戸内物語

観察日記、始めました。

私の主は変な人だ。
イロモノ武将揃いのこの世界の中じゃまともな方だろうが、やっぱり少し変わってる。具体的にここがこう、って言うのはないけど、なんか変わってるのだ。


「…元就さーん」
「………………」

呼びかけてみても見事に無視。さっきからずっとこの調子だ。部屋から出て行こうとすれば出るなと怒るくせに、話しかけても巻物から目を離そうともしない。
正直言って、暇だ。だからと言って、雇われている身なので主の命は絶対。出るなと言われたのに勝手に出たら、クビか、最悪殺されかねない。

「(…この人ならやりそう…)」

思わず自分の胴体と首が斬り離れたところを想像して、身震い。
むぅ…と膨れて自分の膝を抱え、膝の上に顎を乗せて主を睨む。睨まれている本人は相変わらず巻物に夢中だ。相手にしないなら、いてもいなくても同じなんじゃないか、と前に他の仲間に愚痴ったら、とてもいい笑みを浮かべられた。何だって言うんだ、いったい。

「元就さーん、暇でーす」
「…………………………」

やっぱり無視だ。もういい加減腹が立ってくる。
私も忍以前に一人の人間であって、喜怒哀楽という立派な感情があるのだ。それをこの人はわかっているのだろうか。…まぁ、わかっていても変わらないのだろうけれど。


「……とう!」
「っ!?」

あんまりにもイラッときたので、巻物に夢中な元就さんの背中にのしかかってみた。
散々無視を決め込んでいた元就さんでも、これには流石に反応を示した。それはそれは不機嫌そうな顔がこちらを向く。

「退け」
「やですー元就さんが構ってくれるまでどきませんー」
「…………………」

至極不機嫌そうな顔から一転、大層呆れた顔で盛大な溜息をつかれた。溜息をつきたいのはこっちだよ、というセリフは飲み込んでおいた。言ったら後で何をされるかわかったものではない。
それでも体当たりを喰らわせてしまった以上、後には引けない。この際文句の一つ言っても言っておこう。

「だって、さっきからずっと巻物見つめて、私のこと無視してるじゃないですか」

我ながら子供っぽい仕草だとは思うけど、頬を膨らませて文句を言う。
そんな私を一瞥し、元就さんはまた巻物に目を移す。

「……さっさと仕事を終わらせれば、その後貴様を構う時間ができる。それくらいわからんのか」

ぶっきらぼうに、一言。
一瞬面を喰らったが、ほんのり朱に染まった顔を見たらおかしくなった。

「どうせ私のような駒に、元就様ほどのお方の考えなどわかりませぬよー」
「…ふん」

やっぱり、私の主はちょっと変わってる。
愛情表現が苦手なくせに、結構寂しがり屋な君主さまは傍に仕えていて飽きない。


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