瀬戸内物語 | ナノ



瀬戸内物語

始まりは唐突に

今日も今日とて観察……といきたかったのですが、

「嫌です――ッッ!!来ないでください――!!」
「待たぬか葵――!!」

それどころじゃなくなりました。


「元親さぁぁあん!!」
「葵っ!…!?」

随分長い道のりを、文字通り走ったり飛んだり爆破したりしながらやっとたどり着いた。幸運にも目的の人物はすぐ見つかった。葵は歓喜のあまりその人の背中に飛びつく。とは言え、身長の差のせいで腰周りに抱きつく感じになったが。

「うわああん!会いたかったです元親さんー!!」
「おいおいどうしたぁ?何の連絡もなしにお前から来るなんて珍しいじゃねーか」

よくアイツが許したな、なんて笑いながら頭を撫でててくれる。撫でると言うよりは髪をぐしゃぐしゃーとする感じで、ちょっと痛い。
地獄に仏状態だったが、元親さんの『アイツ』で一気に現実に引き戻された。

「そうだった!元親さん、助けてください!!」
「は?」






事の始まりは3日前。

その日は一週間がかりで任務を終わらせて帰ってきた。葵が仕事で離れている間に、毛利軍は毛利軍で別の戦があったらしい。心身ともにお疲れ気味の兵士たちに挨拶しつつ、自分も疲れてた。お互いお疲れ様です、と心の中でも言いながら、さっさと主である元就に報告に行こうとした時、女中さんや忍仲間に呼び出された。
元就への報告を優先しようとしたが、あまりにも必死な彼らに丸め込まれ、旅装束のまま話を聞くこととなった。

「葵さまぁあ!」
「ど、どうしたの…!?」

飛びつかんばかりの勢い(実際女中さんには抱きつかれた)で詰め寄られ、何がなんだかわからないは葵ただただ驚く。

―――――聞けば、私がいない間の戦で、元就さんが変な宗教に入ったらしい。
今までも日輪信仰が篤かった元就さんなだけに宗教云々には大して驚かなかったが、どうやらそんな簡単なものではないらしい。

「元就様が、愛に目覚められました」
「………………………………………………………………………………はい?」

たっぷり10秒経ってから、やっと声を出した。彼らが言っていることはそれくらい真実味がない。
あの元就さんが愛に目覚めた?

「信じられないかもしれませんが…」
「うん、信じられない。レベル1で初期装備のまま神の領域つけて究極で天下統一するくらい信じられない」
「そうなんですよ!でも悲しいかな、本当なんです!」
「いや、仮に本当だったとしても私にはどうにもできませんからね!?」

彼らの口ぶりからすると、私にどうにかしろと言ってるように聞こえる。どうにもできないというか、もしそれが本当なら関わりたくもない気がする。

「私だって雇われて働いてる、元就さんから見たらただの駒なんですよ!?」

今までもそうだったが、私がよく元就さんの近くにいるので周りは私のことを『我らが殿の良い人・時期正室』と思っているらしい。一体どこをどう見ればそんな考えに行き着くのか。私にはさっぱり検討もつかない。そう思ってそのまま伝えると、「またまた!照れないでくださいませ!」とか「違うんですか!?」とか頭の痛くなる返事ばかり返ってきた。

「もしかしなくても、私に止めさせようとして呼び出しを…?」
「それもありますけど…」

あるんかい!と思ったがツッコミは心の中だけにしておいた。
それもありますが…と言った忍仲間は他の人と目を合わせてこの先を言っていいか迷っているようだった。

「?なんです?」
「いや…」
「失礼します」

忍仲間が言葉を濁していると、襖が開き別の女中さんがやってきた。

「葵様、殿がお呼びです」
「あ、報告のこと忘れてた…今行きます」
「あ、ちょっと葵様!?」

気迫に負けて呼び出しに応じてしまったが、本来なら主への報告が先。また文句言われるな…と思いながらも重い腰を上げる。途端に女中さんたちの目の色が変わる。

『葵様・・・!』
『御武運を・・・!』
「え、ちょ、何!?何があるの!?」

哀れみやら同情やら一部祝い顔やら、いろいろな感情が雑じってそうな視線を向けられる。それでも何と聞いても教えてはくれない。
このままでは埒があかないと思い、葵は報告すべく主・元就の元へ向かった――…

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