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こんにちは御曹司

ぱたぱたぱたぱた。
風に翻るシーツは新品のように真っ白で、久し振りに顔を覗かせた太陽と、まだ少し薄い水色の空によく映えた。眩しい光に目を細め、空になった籠を抱え、なまえは欠伸をしながら室内へと戻った。
黒と白の双子にお弁当を渡し、出勤を見送る為に、なまえの朝は早い。けれど、二人を見送った後は、こうして洗濯物を干したり、掃除をするくらいしかすることがない。

「そろそろ職を探さないとなあ……」

頬杖を付いて、貰ってきた求人広告を眺める。職業と給与、仕事内容が細かな字で羅列された薄い冊子を読むわけでも無くパラパラ捲り、溜息を落とす。
決して働きたくないわけではないし、働く気はあるのだ。けれど、どうにも気が乗らない。

「うちで働くかい?」
「もう雇ってくれたらどこでも……ん?」

なまえは聞こえてきた声に振り返り、固まった。視線の先には、銀髪と整った顔に爽やかな笑みを浮かべる青年がいた。
なまえの頭には瞬時に様々な疑問が溢れた。聞きたいことが多過ぎて、思考がぐるぐると渦巻く。暫く固まった後、なまえは口を開いた。

「………不法侵入?」
「イヤだな、ちゃんと住人に断ったよ」
「……フライゴン…」

心外だと肩を竦めるダイゴの後ろには、ニコニコと嬉しそうなフライゴン。そう言えば、ホウエンで出会った彼女は、ダイゴによく懐いていたと思い出し、小さく溜息を付く。きっと、外で見かけてここまで案内してきたのだろう。フライゴンは悪くない。

「で、どうする?うちで働くかい?」
「デボンってホウエンでしょう?私、今はイッシュに住んでるんだけど」

カントーからジョウト、もしくはその逆ならまだ通えるだろうが、イッシュはそれらの地方から遠く離れている。とても毎日通える距離ではない。なまえは頭に地図を浮かべながら、やはり物理的に不可能だと結論付けると、ゆっくり首を横に振った。
しかしダイゴはそんな返事は想定済みだと言わんばかりにニコリと笑い、その笑顔になまえはぞくりと背が粟立つのを感じた。

「ホウエンに住めばいいじゃないか」

ちょっとお茶でもしに行こう、と誘う気軽さを孕んだその言葉に隠された意味を汲み取りかねて、眉を顰める。今までの経験上、ロクでもないことであることだけは察して、なまえは返すべき最善の言葉を探した。
けれど、そんななまえの心情はお見通しだと言わんばかりに笑うダイゴは、椅子に座り自分を見上げる形になっているなまえの頭を優しく撫でた。

「なまえのことだから、いくら口説いても無駄だよね」
「はぁ…」

ふーやれやれ、と溜息を付き首を振るダイゴに、なまえは苛立ちを覚えた。馬鹿にしているのか、と喉まで出かかった言葉を飲み込み、ダイゴの二の句を待つ。

「だったら、なまえの気持ちをこっちへ向けるだけだよ」

「覚悟してね」と、ダイゴはそこいらの女性を虜にするような笑みを浮かべ、惚けるなまえの額に口付けた。
ゆっくり離れ、なまえを見下ろしたダイゴは、暫し笑みを消し、不満気に呻いた。

「……せめて少しくらい頬を染めるくらいしてくれたっていいじゃないか」
「お陰様で慣れました、っと。
嬉しいお誘いだけど、まだ暫くはイッシュを楽しみたいの」
「ルームシェアと言い、妬けるなぁ」
「その割りには余裕そうに見えるけど」
「まあね、持久戦は嫌いじゃないよ」

軽口を飛ばし合って、漸くいつものやり取りができたとなまえは安堵した。
今日は挨拶しに来ただけだからまたね、とあっさり帰って行くホウエンの御曹司の後ろ姿を呆気に取られて眺める。なんだったんだろうかと考え、すぐにそう言えばもうすぐPWTが開催される筈だったことを思い出したなまえは、暫くこちらに滞在するであろうことを悟り、人知れず溜息を零した。




御曹司はどの地方でも気兼ねなく出せるので使い勝手が良いですね!!
(150527)

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