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かくかくしかじか


そもそもどうして私ことなまえが、サブウェイマスターの二人と住んでいるのかと言うと、深い事情だとか止むに止まれぬ経緯があったとか、そう言った複雑な理由はない。一言で言い切ってしまえば、”成り行き”だ。
私は所謂スランプに陥り、旅そのものに疲れていた。落ち着く場所が欲しい。帰る場所が欲しい。
彼らは仕事にかまけて家事はそっちのけ、帰っても休まらない。落ち着く場所が欲しい。帰りを待つ存在が欲しい。
言ってしまえば、利害の一致故の現在だった。


良い年した男女が一つ屋根の下で共に暮らすなど、聞く人が聞いたら不健全だと言うだろう。しかし考えても見て欲しい。いい年してポケモンと旅とバトルにしか興味がないのも、それはそれで不健全ではなかろうか。これは私の持論である。
一応断っておくと、私と彼らはそういう関係は一切ない。男女の友情は成り立つか否か論争は、3人とも”成り立つ派”である。しかし、極めて不安定なバランスの中でしか成り立たない、と言うのも三人の共通する意見だ。
三人の内誰かが、友情では無く異性に対する情を抱いてしまった時点で、今この関係は簡単に瓦解するであろうことも、皆同意の上でのルームシェアだった。

さて、それでは私たち三人はお互い友達として認識しているのかと言うと、厄介なことに、そうではない。

「僕はなまえとシたいよ!」
「私も、なまえのことを友人だと思ったことはありません」
「へぇ……」

きっぱりと言い切る姿は清々しい。潔過ぎて涙が出る。特に白い方。よくこんな二人と暮らしていて貞操が守れるなぁと我ながら感心する。

「大丈夫だよ皆、落ち着いて」

それまで寝ていた愛するパートナー達は、二人(主に白い方)のただならぬ発言に飛び起き、私を囲うように円になり、ぐるるると二人を威嚇し始めた。
彼らがいる限り、私の身の安全は保証されている。冷や汗を流して謝る白と黒を見て、そう確信した。

「確かになまえにやましい気持ちはあるけど、今のこの関係が壊れるのは嫌だよ」

威嚇どころかエーフィとブラッキーには齧られているクダリくんは言う。キリッと言い切る姿はバトル時を彷彿させる格好良さがあるが、如何せん発言内容の半分ほどに不適切な内容が混じっていた為にイマイチ決まらない。

「僕はなまえもノボリも、皆大好き!三人で暮らしてるの、すっごーく幸せ!」
「そうですね、私も同じ気持ちでございます」

本当に幸せそうに、にかりと笑うクダリくんと、穏やかに微笑むノボリくん。
先程の聞き捨てならない発言は、自分の身の安全の為に忘れることは出来ないが、私とて二十数年生きてきて、そこまで鈍くないと自負している。だから、まぁ、薄々勘付いていたところもある。だからあまり驚きはなかった。
それに、二人の言葉が本音であることもまたわかるが故に、警戒するよりも嬉しさの方が勝って、つい頬が緩む。

物心付いた頃から旅を住処とす、を体現してきた私にとって、帰る場所、帰りを待つ人は慣れない存在であると同時に、慣れてしまった今となっては、今までそんな存在無しに鉄砲玉のようにあちこちの地方を旅していた頃が信じられない程に安心し、無くてはならない場所になっていた。
二人の元へ帰れること、二人の帰る場所になっていることが、今の私を形成する一部分となっているのだ。

「私を手に入れたくば、まずはこの子達に勝ってからね」

先程言ったように、誰かが異性に対する情を抱いてしまったら、この関係は壊れてしまう。けれど、複雑なもので、恋愛感情以上に、それぞれがそれぞれに違う思いで、依存に近い形をとっている。兄弟愛だったり、親愛だったり、それらが上手いこと釣り合って均衡が取れているのだ。
だから、今のこの関係を続けるには、私はこう言って余裕たっぷりに笑うしかないのだろう。




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