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 隣の虹色

新年度が始まり、私も学年が一つ上がった。先輩であり後輩である、2年生。学校生活にも慣れて、まだ受験に怯えるほどでもない、多分1番楽しい学年だろう。
取り立てて秀でた才能も容姿も持ち合わせていない私でさえ、目の前が色鮮やかだった。物理的な意味で。

「修くんが黒髪で良かった」
「いきなり何だよ」

隣を歩く幼馴染(の頭)を見ながらしみじみと思う。入部早々1軍に上がったカラフルな4人と可愛い後輩マネの桃色に見慣れてきた今、黒髪であることが珍しいような気さえしてきた。最近気が付いたのだが、どうやら新入生の中に水色と灰色と黄色もいるらしい。人混みの中でも目立つから、校内でも目にチラつくのだ。其々似合ってるからまた奇跡だと思う。でも流石に虹色の髪はなかなか隣に立てなさそうなので、幼馴染の黒髪に今更ながら感動する。
1人でうんうんと頷く私を訝しげに見下ろす顔は、そう言えば随分と高い位置にあって、成長期男子の底力を感じた。

「ほんの一年前まで、私の方が高かったのになー」
「高かったって、たかが3cmくらいだろーが」

小さくて可愛かった幼馴染の成長によよよと涙を流すと、呆れたように笑いながら、ぽんと頭に手が乗る。あぁだからこれ弱いんだって。反射的に緩む頬。知っててやってるんだからタチが悪い。信号が変わると同時に離れていく手が名残惜しい、なんて意地でも言わないけれど。

「そーいやお前、2人っきりの時は名前で呼ぶのな」

あの変なあだ名やめろ、としかめっ面で言われ、肩を竦める。

「女の子の世界は怖いの。修くんこれでもモテるんだから」
「これでもとは何だ。いーじゃねーか、幼馴染なんだから堂々としてろよ」
「幼馴染だからこそ気を付けないと!」

名前で呼べ、嫌だ察しろの応酬は、半年ほど前から日常茶飯事になっている。
中学に上がって男女の差が明確になって、惚れた腫れた誰それが付き合ってる、なんて話題も珍しくなくなってきた頃、強豪バスケ部次期主将と名高いの虹村修造と幼馴染である私、白澤理緒がその話題の標的になることは自然な流れだった。未だにお互いの家を行き来しているし、部活も一緒、帰る方向が同じだから行き帰りも一緒、となると、「付き合ってるの?」と聞かれて当然だろう。
幼い頃からずっと一緒だったから、側にいることが当たり前になっていた。中学に入って男女の差は明確になっているとは感じていても、幼馴染という関係は変わらなかったし、そもそも恋だの愛だの言うには早い気がするのだ。離れることなど想像できないが、いつかは、と思うことはある。どちらかに好きな人ができたら、と漠然と、しかし確信していた。

「お互いに恋人できるまでだね、隣にいられるのは」
「……はぁ?」

すとん、と胸に落ちた言葉を呟けば、一瞬間を開けた後、呆れたような、ちょっと怒ったような声が降ってきた。見上れば不機嫌さを全く隠そうともしない顔がこちらを見下ろしていて、少しだけたじろいだ。

「お互い彼氏彼女できても今まで通りだったら、相手が可哀想でしょ」
「なんでだよ」
「なんでってこいつ馬鹿なの?アホなの?」
「うっせ。じゃあ俺たちが付き合えばいいだろ」

何言ってんだこいつ。思わず真顔で返すと「別に今更だろ、色々」なんてからっと言い切る我らがレインボー。何言ってんだこいつ。

「可哀想に修造……きっとまだ新学期に慣れてなくて疲れてるんだね。誰よりも努力家だもんね、いつもお疲れ様」
「なんでお前そんな慈悲深い顔してんの」
「何か飲む?奢るよ?」
「何この顔すげームカつく」

色々と重なってきっと疲れているんだろう。そう察した私は幼馴染を労ってやろうと心に決めた。しかし半目で見下ろしてくるものだから、思わずため息をつく。

「付き合うったって、今と何が変わるの」
「そりゃあお前、色々、なぁ?」
「とりあえずこっち見て言おうか」

怪しい笑みを浮かべ、手をわきわきさせる幼馴染を叩きながら、そう言えば男の子なんだと、今更思い知る。身長なんかあっという間に追い抜かれたし、運動部なだけあって体格も大人のそれに近い。

「大きくなったねぇ」
「馬鹿にしてんのかてめー」
「感慨深いのよ」
「……そういうお前も大きくなったな」
「突然の嫌味!」
「胸が」
「半径10m以内に近寄らないでくださーい」

教科書たっぷりのスクールバックを鉄球投げの要領で振り回し、黒髪の幼馴染の鳩尾にクリティカルヒット。虹村に150のダメージ!これで世界は救われた。うむ、と1人満足げに悦に入る。
どうせ朝練でもクラスでも会うのだから、痛みに悶絶する幼馴染には目もくれず、可愛い後輩マネージャーの元へ急ぐことにした。
今日もいい天気だ。





(140621)

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