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 何物にも染まらない

「理緒、今日も頼む」
「りょーかいですっ」

緩く敬礼の真似事をすれば、フッと笑い、頭を撫でてくる。小さい時からの癖だ。子供扱いされてるみたいだと思ったこともあったが、私はこれに弱かった。今も口元が緩むのを抑えられない。
気合を入れるためにも髪を一つにまとめ、バインダーにまとめた練習の内容を再確認しながら、ドリンクの用意をする。私が用意するのは一軍の分と限られているので、可能な限りレギュラー陣の好みに合わせたドリンクを、それぞれのボトルへ入れていく。
入ってきたばかりの後輩マネージャーに指示を出し、一軍メンバーの調子を書き取って行く。
4月に入ってきた一年生から、早速一軍に昇格した子が四人もいる。体格もセンスも、同学年どころか3年生と比べてもズバ抜けて良い。 一軍に入りたての人は、まず私が様子を見てメニューを組むことになっているから、目下この四人の世話をしなければならないのだ。幸い一軍から三軍に分けても人数の多いこのバスケ部の中でも、彼ら四人の頭の色はとても目立つから、観察するにはうってつけだ。



前半の練習が終わり、休憩の合図である笛を吹く。群がる部員に用意したドリンクを配りながら、カラフルな四人を呼び寄せる。
四人とも一軍の練習について来てはいるが、やはりまだ慣れてないのか少し疲れ気味である。まだ成長途中とは言え、既に私よりも頭一つどころか二つも三つも高い男子を目の前に座らせ、楽にするよう伝えると、各々思い思いの体制でくつろぎ始めた。苦笑いしながらバインダーに挟んだ紙を捲り、ここ数日の観察で気になった点を読み上げる。

「紫原くんは、お菓子控えようね。ニキビできるよ」
「えー理緒ちんのいけずーー」
「君はどこでそんな言葉覚えてくるのか先輩心配だよ。
緑間くんはその手に持ってる物は何かな?え、トマト?」
「おは朝のラッキーアイテムです」
「そ、そっか……それからえーと、青峰くんは何を見てるのかな?」
「なー理緒先輩って何カップ?」
「うん、もう少しオブラートに包もうね。最後に赤司くん……は、言うことないです完璧です」
「ありがとうございます」

どこから取り出したのかお菓子を貪る紫、小さいながらも立派に実をつけているトマトの鉢を抱える緑、キラキラした瞳で(胸元を)見上げてくる青、リラックスしながらも礼儀正しく微笑む赤。
なかなか面白い絵面だと思う。できれば遠くからそっと眺めていたい。私の髪は日本人らしい黒です。嘘、若干こげ茶です。でも少なくとも日本人の髪色してます。
ははは、と乾いた笑みを零し、気を取り直すように咳払いを一つ。四人を集めた理由を説明する。

「四人ともまずは体力作りと基礎練を重ねて、基礎を固めましょう。一先ず一週間は皆同じメニューこなして、様子見ながら一人ずつ自主練メニューを作っていくね」
「えっ練習メニューって理緒先輩が作ってんの!?」
「え、うん」

驚いたように目を丸くして見上げてくる青峰くんの勢いに私が驚く。作ると言ってもそれぞれの苦手分野を補強するために、既存のメニューを個々に配分するだけで、私オリジナルのメニューというわけではない。そのことを説明すると、キラキラと目を輝かせて「すげぇ……」と呟く青峰くん。照れるからやめておくれ。

「こいつの選手を見る目は確かだからな。一軍に入りたての奴らの面倒は理緒が見る」
「にじむーいつの間に」

色とりどりの頭に気を取られている内に、我らが虹村次期主将が横に来ていた。誇らしげに言ってくれるのは嬉しいけど、肩に手を回すのやめてくれませんかね。身長差も合いまって重いです。

「おいにじむーって何だよ」
「え、虹村だからにじむー」
「毎日毎日別の呼び方すんなセンス悪りぃ」

いやいやそこは毎日新しい呼び名を考える素晴らしい発想力を褒め称えて欲しい。そう言えば心底嫌そうな顔する幼馴染と、ぽかーんなんてオノマトペが付きそうな様子のカラフル四人組。え、何この空気やめて居た堪れない。
なんとも言えない空気にどうしようか思考を巡らせていると、ぴぴぴぴぴ、なんてこの場に似つかわしくない電子音が鳴った。天は我に味方せり、休憩終了の合図だ。

「はい休憩終了ー!後半の練習始めるよー!」

半ば無理矢理その場を収めるように声を上げると、何だかんだ皆バスケ馬鹿なのだ、気にかかることはあれど素直に練習に向かった。
一先ず安心、と胸をなで下ろしたのも束の間、顔を持ち上げるように顎を掬われ、力尽くで視線を上げさせられる。

「お前後で覚えてろよ」

普段からお世辞にも愛想良いとは言えない顔に、殊更深い皺を眉間につくる。私は慣れているけれど、そうでない子が見たら泣き出すのではなかろうか。
これは面倒なことになりそうだ。長年の付き合いからこの後の展開を予想し、溜息をつく。ここは一先ず私が折れておくのが得策だ。

「ごめんってば。ホラ、早く行かないと」
「誰のせいだアホ」
「もー…残りの練習も頑張って、修くん」

物心付いた頃からの呼び名で呼べば、満足そうに鼻を鳴らす幼馴染。たったそれだけで機嫌が治るんだから扱いやすい奴である。言わないけど。
休憩から戻り集まる部員の輪に向かう幼馴染を見送り、私はマネージャーの仕事に戻った。




キセキ入学時は虹村はまだ主将じゃないよね…?と言うことで次期主将表記。
(140604)

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