365日 | ナノ


 探す365日

昔からお菓子を作るのが好きで、よく近所の幼馴染みに渡していた。今思えば作っていたのはほとんど母で、幼い私は卵をわるとか果物を乗せるとか、そんなことくらいしかしてなかった。
それでも当時好きだった男の子が喜んでくれるのが嬉しくて、毎日おやつどきに作っては渡しに行く毎日だった。

「おとなになってもリオのおかし、たべたい!」
「じゃあ、およめさんにしてくれる?」
「うん!大きくなってもリオがおかしをつくってくれたら、けっこんする!」
「ぜったいぜったい、やくそくね!」

ほどなくして私は引っ越し、年を重ねるにつれ彼らとは連絡をとらなくなっていった。
幼少期の可愛い約束を信じてるわけではなかったが、私は未だにお菓子を作ることが好きで、先日ついに自分の店を持つにまで至った。




「…と言うわけです」

話しながら段々恥ずかしくなってきたため伏せていた目を少しだけ上げて見れば、目を輝かせた少女がこちらを見つめていた。これは恥ずかしい。思わず目を逸らすも、熱い視線が頬の辺りに刺さる。

「すごいすごい!ロマンティックー!」
「これで初恋が叶ってたら、ね…」

話しているうちに冷めた紅茶を意味もなくかき混ぜながら、頬の熱が冷めるのを待つ。それが仕方なく諦めたように見えたのか、トウコは「諦めちゃだめー!!」と拳を振り上げ熱弁し始めた。

「リオさんなんてまだ若いんだから!諦めちゃだめ!」
「…私より10も若いトウコに言われても…」
「だってパティシエになったのも、その人を忘れられなかったからでしょ!?」
「うーん…」

違わないこともない。かもしれない。5才かそこらの口約束を未だに覚えていて、未だに菓子作りをやめていない辺り、違うとは言い切れない。

「そりゃああの約束が果たせたら素敵だなーとは思うけど」
「ほらぁー!!」
「所詮子供の頃の話だもの」

現に今でこそいないが、人並みに恋もしたし彼氏もいた。忘れられない彼、と言えば聞こえはいいが実際のところ今さらどうしようとも思わないし、相手の方が忘れてると思う。多分。
トウコはまだ少し不服そうだったが、「でもいいなー」と呟いていた。

「いいなー私もリオさんみたいに恋したいー」
「だから今は恋してないってば」
「その彼が今どこにいるかくらいわからないの?」
「え」

ドキッとした。持っていたカップの紅茶が揺れる。すぐにさぁ?、とでも誤魔化せばよかったのに、思わず固まってしまう。目敏いトウコがそれを見逃すはずもなく、間髪入れずに追撃を始めた。

「なになに!?知ってるの!?まさかもう会ってたり!?」

キャーと興奮するトウコに、なぜすぐ誤魔化さなかったのか悔いた。しかし、こうなってしまっては隠し通すのも難しい。…降参だ。

「…どこで何してるかくらいは知ってる」
「どこどこ!?」
「なんなら多分、トウコも知ってる」
「え!?誰!?」

いざ話し出すと恥ずかしいもので、肝心の所がなかなか口から出てこない。トウコは早く早く、とせっつく様に身を乗り出してくる。もう腹を括ろう。息を吸うとその勢いで口を開いた。

「バトルサブウェイで、サブウェイマスターをやってる人よ」
「……………………え?」

身を乗り出したまま固まってしまったトウコ。思いきって白状して開き直りスッキリした私。先程とはまるで立場が入れ替わったようだった。
固まったままだったトウコは、多分聞きたいことが多すぎて何から質問しようか決めかねているのだろう。数秒間をおいたあと、小さく口を開いた。

「………どっち?」
「えーと、確か黒い方よ」
「ってことはノボリさん!?」

肯定するように頷くと、トウコは驚きから再び好奇心に満ち溢れた顔になった。わーと声を上げるトウコまで、顔を火照らせている。

「まさかそんな有名人だったなんてビックリしたー」
「だから誰にも言ったことなかったのよ…」

私だって彼ら…ノボリくんとクダリくんがこんな有名になってるなんて知らなかった。幼馴染だから、なんて気軽に会える存在ではなくなってしまったのだ。音信不通になったときは会おうと思えば会える、なんて思っていたのに。気が付いたら随分離れてしまっていた。

「え、じゃあライモンにお店出すのはノボリさんがいるから?」
「それは本当に偶然。だって店を出すのが決まってから知ったんだもの」
「素敵!これで再会して付き合いだしたらロマンティックね!」

年頃のトウコには夢のような話題なのだろう。目を輝かせてうっとりしている姿は、純粋に羨ましいほどまぶしい。

「せっかく近くにいるのに会わないの?」
「連絡先がわからないし、そう簡単に会いに行ける人じゃなくなっちゃったからね」
「でもでも、バトルサブウェイだったら誰でも行けるし!」
「ノボリくんに行くまでが難しいわ」

むむむ…と唸るトウコに、せっかく後押ししてくれてるのに、と少し後ろめたさを感じる。自分の中では終わった初恋なのだと思っていても、気にならないと言えば嘘になる。できるものなら、会うだけでも会ってみたい。たとえ恋心がなくても、大事な幼馴染には変わりないのだから。

「会いたい、けど、自分の手には届かない遠い存在になっちゃったみたいで」

会ってみたところで、覚えていてくれるだろうか。何となく、会うのが怖い。
情けない自分に苦笑していると、妙に真面目な顔をしたトウコが睨むようにこちらを見ていた。

「逃げちゃダメだよリオさん。ちょっと来て」
「え、」

トウコは答えも聞かずに私の手を取ると、有無を言わせず立ち上がらせ、玄関に向かってずんずん進んでいく。ちょっと待って、と静止の言葉をかけてもいいから、とそれ以上の言葉を紡ぐことさえできなかった。




-------------------------
(120626)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -