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 やさしい殺意

変な奴だった。村を襲ったおれたちに命乞いするでも媚びるでもなく、「私はどうしたらいい?」と淡々とした調子で聞いてきた。自分の家族を殺した奴等に言う言葉かと嘲笑い、殺してやろうかと思ったのに、見た目だけは良かったせいで蛮骨の大兄貴に気に入られて、そのまま付いてきた。最初はとにかく気に食わなくて、隙あらば殺してやろうとした。でも大兄貴の手前と存外美味い飯を作るもんだから、殺す機会はどんどん減っていった。おまけに俺好みの着物や簪を器用に作るようになると、殺す気すら失せた。

「お前ってほんっとに変な奴だよな」

着物を畳む手を休めず、こちらをちらりとも見ずに「そうですか?」と応えた。別に無愛想なわけではないが、感情表現が乏しい、と思う。今だって嬉しいのか悲しいのかわからない。淡々と、目の前の仕事に没頭している。
仕事としてここにいるのだろうかと、たまに思う。命懸けで付いて来て料理や洗濯をする代わりに最低限の衣食住は保証する。それが七人隊に付いてくる時の条件だった。身寄りを亡くしたこいつには願ってもない条件だったのだろうか。料理は上手いし気も利く上、そこそこ腕も立つ。俺はともかく大兄貴の夜の相手も、まぁ、しているのだろう。多分。

「逃げようとか思わねーの?」

そう言うと初めて手を止め、顔を向けた。揺れる瞳にぎょっとした。なまじ表情から感情を掴みづらいだけに、たまに見せる感情をさらけ出した表情は未だに慣れない。

「逃してくれるんですか」
「逃げたいのか」
「いいえ、むしろ逆です」

また視線を手元に戻すと、着物を畳み始めた。幾分遅くなった手の動きは、しばらくすると止まった。迷うように顔を上げ、俺を見る。

「蛇骨さんは女が嫌いなんですよね」
「はぁ?……嫌いだね、あんな弱くて媚びを売るだけの存在」
「じゃあ、私はいなくなった方がいいですか?」
「……はぁぁあ?お前がいなくなったら誰が飯作って洗濯するんだよ!?」
「でも、私は蛇骨さんの嫌いな女ですよ」

そう言えば、こいつは女だ。でも、嫌じゃない。何でか?だってこいつは役に立つし、媚びないし、弱くはない。こいつは、

「お前は、嫌いじゃない」
「…………そう、ですか」

ホッとした顔で笑われると、調子が狂う。でも嫌じゃねえと思うんだから不思議なもんだ。

「私が邪魔になったら、殺してくださいね」
「当たりめーだ、おれたちの足手まといになるようなら真っ先に殺してやらぁ」

おれたちのことを一番わかっている、決して足手まといにはなっていない存在。それでもおれは、何かあれば戸惑うことなくこいつを殺せる。他の奴に殺させるくらいなら、おれが殺してやる。


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七人隊が 好きです

(20120225)

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