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 と帰り道

「寒くなりましたねぇ」

息を吐けば白いもやとなって目の前に表れ、鼻に当たって生温い心地がする。日はとうに沈んでおり、都会のネオンや喧騒から離れたカナワタウンは、細やかに道を照らす街灯以外は深い闇に包まれていた。
ふう、と息を吐き出しながらリオは隣を歩くノボリを見上げる。黒い帽子に黒いコート、細身のスラックスも大きな靴も真っ黒なノボリは、夕闇と一体化しているようでハッとする。そのま呑まれてしまいそうだという不安を抱いたのは数ヵ月前。今ではそんな馬鹿なこと、と一笑に伏すことを当時は本気で考えていたのだ。
マスターと挑戦者という肩書きが恋人に変わったのは今でも夢なのではないかと思うときがある。今まで体験したことのない、くすぐったいような、しかしどこか温かな気持ち。生活環境はまるで正反対になったが、確かに幸せの中にいると感じるのは初めてだった。

「風邪を引きますよ」
「っわ、」

横から何かが首に巻かれ、ゆるく絞められる。一瞬本気で殺されるかと身を固くしたが、首筋は絞まるどころか温かくなった。見上げてくるリオから少し目を逸らし、ノボリは「差し上げます」と小さく言った。事態が飲み込めずに自分の首に巻かれたものとノボリの顔を交互に見る。

「マフラー?」
「リオさまはいつも薄着ですから、せめて首元くらい暖かくしてくださいませ」
「でもこれ、ノボリさんのじゃ…」
「リオさまに差し上げようと、こっそり買っていたのです」

ご迷惑でしたか?と心配そうに覗き込んでくるノボリをぱちくりと見上げ、リオはマフラーに顔を埋めた。にやける口許を隠すように。不安そうなノボリに首を振り、ゆるむ口許を引き締めマフラーから顔を出した。

「すっごく嬉しいです!本当にもらっていいんですか?」
「もちろんです」

ノボリはホッとしたように顔を崩す。そんな少しの仕草すら体温を高めるのだから、恋とやらは偉大だ。苦手な冬も、今年は少し楽しみだと小さく笑みを溢した。


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(120210)

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