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 恋愛幸福論

初めてなんです。そう言った彼女を寝台に組み敷いて、ノボリは存外余裕のない自分を胸の内で嗤った。真面目一辺倒で堅物だと称される自分すら、生き物としての本能に簡単に屈してしまうのだから、世の中は性の低年齢化だのと騒がれるわけだ。普段そんなニュースを目にするたび眉を顰め苦言を呈す自分とは正反対だと、他人事のように思う。
大事にしよう。そう、確かに思ったのに、本能の前では理性は脆く崩れ去った。きっかけはなんだったか、たった数分前の出来事のはずなのに、それすら曖昧だった。今はただ、無性に目の前で不安げに自分を見つめる愛しい彼女を全身で欲していた。




いくら恋愛経験に乏しいと謂えど、いい年した男女が恋愛関係にある以上、そういったことが起こることを全く想定していなかったと言えば嘘になる。いつかは、と考えたことはあるが、しかしそれがいつどんな雰囲気でなるかまで考えたことはなかった。どのようにして今自分は組み敷かれているのか、この後の行動に予想はついても、どうしてこうなったのか、数分前のことが思い出せない。
かろうじて初めてであることを告げたが、それをどうして欲しいというわけではなかった。男は女よりも性欲を抑えるのが苦しいと聞いたことがある。自分は彼に我慢を強いていたのだという自覚は、心のどこかにあった。だから抱きたいのならば受け入れるつもりだった。それでも初めてであることを告げたのは、所詮我が身が可愛いということか。小さな罪悪感を感じながら、ただひたすらに自分を欲してくれるノボリに応えようと、目を閉じた。


(20120119)

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