2014~ | ナノ


 穏やかに流れる風の如く

『白い風』『時々暴風』続き


「結婚しようか」

まるで遊園地で、次は何に乗る?とはしゃぐ子供のような言い方だった。口から発される言葉と声音がちぐはぐで、冗談とも本気とも取れない。辛うじて内容と、声音からはわからない真剣な瞳で、どうやら本気らしいことがわかった。本気だとわかったから、タチが悪かった。思わず漏れそうになる舌打ちを飲み込み、小さな溜息をつく。

「空気を読まないとは思ってたけど、時と場合を選んでください」
「そうだな、じゃあ今晩はミアレの三つ星レストランにでも行こうか」

今度こそ聞こえるように舌打ちをする。聞こえている筈なのに、「冗談だよ」と笑うダイゴが憎らしかった。「さっきの言葉は冗談じゃないけど」知ってるから言葉を探して悩んでるんじゃないか。

「大体私たちって付き合ってたんですか」
「これで付き合ってなかったつもりなら、僕はとんだ道化だね」
「目に見えるものだけが、真実じゃないんですよ」
「付き合ってるという事実は、明確に目に見えるものじゃないから大丈夫だね」

ああ言えばこう言う、という言葉は
まさに今この瞬間使われるために、生まれたに違いない。眉根を寄せて不快そうな顔をするリオを、ダイゴは相変わらずマイペースに「可愛い顔が台無しだよ」などと笑う。
そうだ、この男はこういう人間だった。



2年前、シルフカンパニーで告白紛いを受けたリオは、宣言通り3日でフォレトスを育て上げた。約束の日、容赦無く「返事は?」と聞いてきたダイゴから逃げられないと悟り、正直に「今はわからない」と答え、これはフったことになるのだろうか、とぼんやり思う。決して色よい返事とは思えず、ダイゴの顔を見れなかった。

「そっか。じゃあ、行こうか」
「はい。………え?」

どこに?と聞く間も無く手を引かれ、気が付けば船の上、混乱する状況を飲み込んだ頃には、異国の地に降り立っていた。
それから2年ほど、一緒にいたと言えばいたし、いなかったと言えばいなかった。共に行動することはあれど、基本的に思い思いにその地を巡る。リオはジムに挑戦し、ダイゴは珍しい石を採集しに行く。多分、どの地方に行っても変わらないであろう過ごし方をした。
そう言う意味で好かれている自覚はあったし、リオもまた同じ意味でダイゴを好いてはいた。しかし、恋人と呼ぶには照れ臭いような、甘ったるいような、そんな雰囲気は無に等しかった。愛の営みどころか、キスをしたり、手を繋いだことすらあったか怪しい。




「遊園地に行った人が絶対に行く場所って何処だと思う?」

観覧車に乗ろうと声をかけ、円がどうのポケモンの解放がどうのと演説を始めた若葉色の少年を思い出しながら、遊園地の風景を思い浮かべる。
家族連れや初々しいカップル、友達グループで園内を歩く人々は、皆浮き足立っていて、期待と幸福に満ちた顔をしている。次はあれに乗ろう、あそこへ行こうと、父や母を、また恋人を引っ張り進む姿は微笑ましい。子供向けの可愛らしい遊具から日頃のストレスを発散するように叫び声を上げる絶叫マシン。どれもこれも列を成して、自分たちの順番を今か今かと待ちわびる人で溢れていた。
遊園地の一番人気、と言うのはやはりどこの園でもあるだろう。けれど、遊園地に訪れた人全員が絶対に行くかと言えば、答えはノーだ。ジェットコースター、お化け屋敷、コーヒーカップ、観覧車。頭に思い浮かべては消し、ダイゴの問題の答えを探す。しかし、それらしい答えは浮かばない。リオが降参、という意味を込めて両手の平を顔の位置に掲げれば、ダイゴは愉快そうに端正な顔に笑みを浮かべた。

「それぞれの家だよ」
「それ、屁理屈じゃないですか」
「世の中綺麗な理屈だけで動いてるわけじゃないよ」
「すごく騙された気分」

ダイゴは大喜利をやってるわけじゃない、と口を尖らせるリオを楽しそうに眺める。

「遊園地は1日で終わるし、旅をしていても、一区切りついたら帰りたくならないかい?どんなに楽しい場所にいても、人には帰る場所がある。家族の住む実家はもちろん、友達や恋人の側だって、安心していられる、帰る場所なんだよ」

ダイゴの言わんとしていることを汲み取りかね、リオは眉根を寄せた。ダイゴは意味のないことは言わない。戯けたように言う言葉の一つ一つに、意味を込めるように話すのだ。込められた意味は、すぐにわからず、何日、下手をすると何ヶ月か経ってから気が付く時もある。だから、分かりづらくとも、目の前で発された言葉の意味を考える。


考えて、一つの結論に行き着いたはいいものの、もし自惚れだったら恥ずかしいどころの話ではないことに気が付いた。多分、きっと、平気。しかし、もし万が一違ったら?そう思うと、辿り着いた結論を口に出すのを躊躇う。

「……降参です、ハッキリお願いします」
「降参?なんとなく、結論は出たんじゃない?」

くつくつと笑いを堪えるように口元を抑えながら軽口を叩くダイゴに右ストレートを繰り出す。

「そういうことは!!相手の口から聞きたいです!!」
「それもそうだ」

珍しく素直に認めたしね、と笑う。初めて出会った時のようにふんわりと抱き留められながら、リオは相手のペースに乗せられっぱなしであることに気付き、しかしきっと敵うことはないのだろうと諦めたように身体の力を抜く。もうどうにでもなれ、と煩い心臓を鎮めることに意識を集中させた。


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多分もう続かない
(141006)


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