2014~ | ナノ


 アイスコーヒーと蜃気楼

茹だるような暑い日だった。
世間は夏休みで学生身分である私ももちろん学校は休みなのだが、受験生というやっかいな肩書きを有してしまったこの夏は、どうにも休みを満喫する気分にはなれなかった。だからと言って、勉強が進むわけでもないのだから、とても勿体無い過ごし方をしているのだろう、と他人事のように思う。
 黒と白の複雑な図形が並ぶ参考書を開きながら、しかしページは一向に進まない。気が付けばノートには数字ではなく決して上手いとは言えない小さな落書きばかりが増えていた。
 もう休憩にしようかと、時間を確認しようと携帯を手に取った瞬間、タイミングよくそれが震えた。折り畳み式の携帯の小さなディスプレイに見慣れた名前が写し出され、開いてみると『外』と一文字だけ書かれたメールが画面に現れた。



「どうせ飽きてきてたでしょう」

 図星過ぎて何も言えない自分が情けない。誤魔化すようにグラスの氷をストローでかき混ぜる。コーヒーが溶け出した氷と混ざり合って、少し味の薄くなったこの飲み物を、私は嫌いではなかった。

「飽きたであろう頃合いを見計らって来る辺り、行動パターンはお見通しってわけね可愛くない」
「彼女に可愛いと思われてなくて良かったっすわ」

 睨みながら言っても、軽くかわされる。本当に憎たらしい。年下なのに、相手の方がずっと余裕があって、時々悔しくなる。たまには年上の余裕を見せてやりたい。こうやって意地になるところが子どもっぽいのだが、いつも相手ばかり優位に立たれるのも癪だった。

「…この後、何するか考えてる?」
「先輩に付き合ってあげますよ」
「じゃあさ、京都いこ」
「……は?」

 予想外の答えに固まる光を見て、私は内心ガッツポーズを決めた。意表をついた!みたいな。だからなんだと言われればそれまでだが、私は光のペースを崩せれば満足なのだ。

「暑さで頭沸いたんスか」
「失礼な!せっかく夏休みなんだから、どっか遠出したいなって思って」

 だから、京都行こう。駅に貼られたポスターの宣伝文句を言えば、光はあからさまに嫌な顔をした。どちらかと言えばインドア派な光にとって、観光地である京都に行くのは喜ばしいことではないのだろう。ましてや世間は夏休み、そして京都の暑さは有名だ。

「嫌だと言ったら?」
「…おいしいぜんざいのお店、行こうと思ったんだけどなー」
「行きましょか」

 してやったり!机の下で小さくガッツポーズをする。これでも光とそこそこ付き合いは長いのだ。京都に友人から勧められたぜんざいのお店があるのも嘘ではない。場所はわからないけれど。
ぜんざいに釣られた光は心なしかソワソワしている。思い立ったら即行動、と会計を済ませ、相変わらず容赦のない日光の下へと繰り出した。



(140728)

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