2014~ | ナノ


 水は絶えず流る

きらきらと輝く水飛沫が落ち着いた頃、リオは奮戦したギルガルドに労わりの言葉をかけてボールへ戻した。
扉を開けた時からの演出、そしてバトルフィールドの特徴で、激しい攻防によって随分と水を被ってしまった。バトルを終え、冷静になるとなかなか悲惨な格好になっていて顔を顰めた。
水が滴るスカートの裾を絞りながら、ちらりと対戦相手を見やると、ばちりと目が合う。

「お見苦しい格好ですみません……でも、良いバトルができました」

ありがとうございます、と会釈をするリオは、相手の反応の無さに不信感を抱いた。訝し気に眉根を寄せながら、顔を上げる。対戦相手ーー四天王のズミは、変わらずこちらを見つめていた。

「あの……?」

此方を見ているのに反応のないズミの顔を覗き込むように近付けば、ボソリと音が漏れた。

「……しい」
「え?」
「美しい!!!!」

ガシッと勢い良く両肩を掴まれたリオは、突然の衝撃と展開に目を瞬かせた。自分はこんなに濡れているのに、肩を掴む手は乾いているのは何故だと、どうでも良いことが気になった辺り、案外冷静なのかもしれない。


「選ぶ技、そしてそれらを繰り出すタイミング、まさに私の思い描いていた芸術そのもの!扉から現れた時の胸の高鳴りを裏切らない、素晴らしいバトルでした!」

肩を揺さぶられ、近距離で受ける熱弁はトレーナーならばこれ以上ない讃美だ。しかもそれが四天王の一人からとなると、大層名誉あることであろう。
しかし、初対面でロクな会話もしていない状態で、いきなり肩を掴まれ至近距離で捲し立てられても、恥ずかしさの方が勝った。水使いということもあり、クールな人なのだろうという印象を抱いていたリオは、第一印象は当てにならないものだと嘆息した。

「あの、とりあえず離してください」

濡れて気持ち悪いし、若干寒いですと訴えれば、ズミは漸く我に返ったように手を離した。半歩ほど下がり、気まずそうに顔を背けられる。

「私としたことが……つい興奮してしまいました」
「いえ、最大級の賛辞で、恐れ多いです」

顔を赤くして視線を漂わせるズミを不思議そうに見つめ、首を傾げる。気まずい空気が流れる空間に居た堪れなくなってきたリオは、恐る恐る口を開いた。

「それじゃ、あの、ありがとうございました」

四天王は、ズミで最後だった。次のチャンピオン戦に向けてポケモン達の回復もしたい。相変わらず挙動不審なズミに軽く頭を下げ、出口へ向かおうと踵を返す。
濡れた足を一歩踏み出そうとした瞬間、くい、と腕を引かれた。リオは怪訝な顔を隠そうともせず、ゆっくり振り返る。

「何度も申し訳ありません、最後にひとつ、」

言いながらズミはポケットから1枚のカードを取り出した。何故彼は濡れていないのだろう、と再度首を傾げるも、早くチャンピオンの元へ行きたいリオは差し出されたカードを受け取った。

「これは…?」

カードはレストランのショップカードのようなものだった。店名と小さな地図、ミアレシティのものであろう通りの名前が小さなカードに書き込まれていた。ズミの意を汲み取りかねたリオは、カードとズミを交互に見て、再度目を瞬かせた。

「チャンピオンとのバトルが終わったら、ぜひお立ち寄りください」

今度はしっかりと目を見て、ハッキリとした口調だった。バトルの時に見せた真剣な眼差しそのものに、リオはどきりと胸が跳ねた。湧き出る思考にふるふると頭を振って気持ちを入れ替え、応えるように、しっかりとズミを見据える。

「絶対勝って行きます」

口許に笑みを浮かべ、不敵に笑う。強張った表情だったズミは、虚を突かれたように一瞬目を見開いて、しかしすぐにリオの言葉を理解し、微笑を口角に浮かべた。





ズミさん模索
(150328)

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