2014~ | ナノ


 みやぶる

むにむにむにむに。頭の中で効果音を付けながら、今日も今日とて仏頂面の頬を触る。抵抗してこないのは、今が仕事も終わり家でまったりしているから。疲れてるであろう彼に癒しを与えているつもりなのである。

「お気遣いは大変ありがたいのですが、もう少し別の方法はないのですか?」
「ないですねぇ」

むにむにむにむに。止めていた手を再び動かし始めると、ノボリは困ったように少しだけ眉根を下げた。溜息の一つでも零しそうだったから、普段はへの字に曲がっている口角を、上へと向けた。

「溜息つくと幸せ逃げるよ」
「溜息つかせるようなことをしないでください」
「それは難しいなぁ」

私が頬をいじり倒しているせいで、ノボリは少し喋りづらそうに口を動かした。普段は決して変わらない鉄面皮を好き勝手動かしてご機嫌な私と、困り顔でも抵抗はしないノボリ。そんな状況に、私はさらに笑みを深くした。

困り顔のノボリは貴重だ。いや、感情を露わにすることが貴重なのだ。出会ったばかりの頃は、どうにかこうにかノボリの表情を変えようと奮闘した。笑わせようと下らない冗談を言ったり、時には表情さえ変われば喜楽の表情でなくてもいいと思い、怒らせるようなこともした(あの時は本当に怖かったので、もう2度とすまい)。
それなりに長く付き合う間に、顔には出ないノボリの感情を読めるようになった。多分、この世でノボリの感情を察することができるのは相棒であるクダリと私くらいだろう。

「普段見ることができないからこそ、有り難みがあると思いませんか?」
「自分で言っちゃうかなぁ、それ」
「理屈で言えばそうなります」
「理屈じゃないのよ」

確かに普段見れないからこそ、時々、本当に稀に、ノボリが笑みを浮かべる姿が反則なほどカッコイイと思うし、誰にでも見せるわけでないと優越感に浸れる。それでも、やはりノボリが笑うと堪らなく嬉しくなるのだ。何度見てもきっと、それは変わらない。

「笑顔は人を幸せにするんだよ。笑ってる本人は勿論、見てる人だってつられて笑っちゃうもの」

にへら、とクダリとはまた違う、「気の抜ける笑い」と称された笑みを浮かべれば、ノボリは意表を突かれたように目を開いた。しかし、次の瞬間にはくつくつと堪え笑みを浮かべ、今度は私が目を丸くした。

「そうですね、リオを見ていると幸せです」
「あれ、何か予想だにしない展開」
「リオの大らかな笑顔を見れば、嫌なことがあっても大抵のことは許してしまえる気がします」
「えっじゃあ冷蔵庫のプリン食べたのも許してくれる?」
「まだバレてないと思っていたのですか?」

やっぱり?と舌を出して可愛こぶる。呆れたように笑うノボリは、私とクダリしか知らない。ノボリの笑顔を見る度に、そんな優越感に浸る。
ノボリはまだ顔を弄ろうとする私の手を優しく握ると、少しだけ引っ張る。特に力を入れていない私は、ぽすりとノボリの腕の中に収まった。

「リオの気持ちは、いつもしっかりと伝わってますよ」

ノボリは冷静沈着で感情も表に出さないのに、人の気持ちには人一倍敏感なのだ。いつも戯けて誤魔化してるつもりでも、ノボリには全てお見通しのようで、それが妙に心地良い。きっと、いつまでも敵わないのだろう、と思う。与えられる安心感以上のものを、与えることはできているのか、無意識下に不安を抱えている。それすらも、恐らくノボリには見抜かれているのだ。見抜かれた上で、ノボリが自分を必要としてくれていることが嬉しくて堪らない。繋がれた指先に酷く安心し、そっと目を閉じた。



(141130)

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