セキエイ | ナノ

仕舞い損ねた鋭さ


「待ってたよ、リオ」

部屋に入るなり響き渡った声に、リオは包まれるような温かさを感じた。一年ぶりに見る姿は、前に見たときと変わっていなくて。顔を合わせると熱っぽい眼差しで見つめられていて、全身が熱くなる。
目が合えばバトルの合図なんて誰が言い始めたのか知らないが、まったくその通りだと、リオは思った。熱っぽさを感じたって、目が合えば自然とバトルが始まる。ワタルのボーマンダに対峙するユキノオーは、初めてのシンオウ以外のリーグ戦に興奮しているようだった。ユキノオーが手を振り上げると、特性の効果であられが降り始めた。

「ボーマンダ、かえんほうしゃ!」
「ユキノオー、ふぶき!」

お互いの激しい攻撃がぶつかり合う。氷と炎が相殺し、フィールドが煙に覆われる。降り注ぐ霰だけが、場違いに輝いていた。

「ユキノオー、もう一回ふぶき!」

間髪入れずに命じた技は、フィールドを覆う煙ごとボーマンダに直撃した。タイプ一致、効果は抜群。それでも倒れることなく睨み付けてくるボーマンダは、正真正銘、カントージョウトのチャンピオン、ドラゴン使いのワタルの実力を感じさせた。並みのトレーナーでは味わえない緊張感と、高揚感。リオはこのピリピリとした空気が好きだった。

「流石、一年前よりボーマンダも強くなったね!」
「そう何度も簡単にはやられないさ!」
「ふふ、私たちも鍛えた甲斐があるわ」

リオの声に応えるように、ユキノオーは腕をぐるぐると振り回した。勢いの増す霰が、ボーマンダの体力をじわじわと削っていく。

「グレイシア、お願い!」

素早く入れ換えると、待っていたようにグレイシアは一鳴きすると同時に走り出した。
特性のおかげで相手を翻弄するようにフィールドを走り回るグレイシアは、一年間シンオウで鍛え抜いた新参者ながら頼れる存在だった。

「ふぶき!」

ボーマンダの後ろに回り込み、吹雪を放つ。蓄積したダメージと相まって遂に瀕死になったボーマンダは、倒れる直前にワタルのボールへと吸い込まれていった。





「なるほど、見せたいと言っていたのはこれなんだね」
「強いでしょ、このパーティー」
「俺の天敵だな」

苦い顔をして言うワタルに、自然と笑みがこぼれた。笑う私に釣られるように、ワタルも表情を和らげる。優しく髪を撫でるワタルは、目を細めて私を見ていた。ほわ、と胸の内が温かくなる、この瞬間が堪らなく好きだ。ワタルの前だとつい顔が緩んでしまうのだから、相当なんだと思う。

「それにしても、何処へ行っても相変わらずみたいだな」

何のことだろう、と首をかしげると、ワタルは笑いをこらえた顔をしながら話始めた。

「シンオウのシロナから珍しく連絡がきたと思ったら、リオのことだったよ」
「シロナから?」
「随分仲良くなったみたいだな」

くつくつと笑いながら言うワタルに、まさかシロナからワタルに連絡が行ってるとは思わず照れくさくなる。知らぬところで自分のことが話題になっていたと思うと、どうにも恥ずかしい。照れるねぇ、と隣に寄り添うグレイシアを見やると、シロナが懐かしいのか嬉しそうに鳴いた。親バカだとは重々承知しているが、可愛くて堪らない。頭を撫でやると目を細めてされるがままになっていた。
そんな私達を微笑ましそうに見ていたワタルは、急に「あぁ、そういえば」と声をあげた。何だろうとワタルの方を見ると、にっこりと笑ったワタルと目があった。

「おかえり、リオ」
「!…ただいま、ワタル」






----------------------------------------------------------

(121027)