セキエイ | ナノ

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「ようこそセキエイリーグへ…ってリオ!?」
「久しぶり、イツキ」

久しぶりの挑戦者だと手を広げて迎えるイツキは、挑戦者の姿を見た瞬間言葉を失った。が、次の瞬間フッと笑うと、持っていたボールを宙に投げた。赤い光線から出てきたのはドータクン。イツキの初手だ。リオも小さく笑うと腰につけたボールを外し、宙に放った。ふよふよと磁力で浮くメタグロスは、ただひたすらにまっすぐとドータクンを見ている。

「ドータクン、ジャイロボール!」
「メタグロス、じしん!」

どちらともなく始まった初戦は、ほぼ同時に互いの技が命中した。しかし相性のおかげかメタグロスはほぼ無傷、ドータクンは、戦闘不能。イツキは好戦的に笑いながら、ドータクンをボールへ戻す。すかさず相棒であるネイティオを出すと、間髪入れずにサイコキネシスを浴びせてきた。効果は抜群ではないものの、高火力の技にメタグロスのHPがじわじわと削られていく。

「っメタグロス、コメットパンチ!」

早めに終わらせないとこの先の戦いもある。素早く決めてしまおうと命じた技は、見事急所に命中した。倒れるネイティオを労いながら、イツキはボールに戻した。






「相変わらず強いね、リオは!」
「だてに全国回ってないからねー」

その後、俗に言う6タテとやらを成し遂げたリオとメタグロスは、満足気にミックスジュースを飲み合っていた。見事に完敗したイツキは、悔しさ半分、嬉しさ半分といった気分でリオたちを見ていた。

「一年ぶりだね」
「もうそんなに経ってた?」

早いもんだねぇ、と楽しそうに言うリオはどこか浮世離れしていた。シロガネやまのレッドと言い、ずば抜けて強いトレーナーはやはりどこか雰囲気から違う。

「リオのことだから、まだチャンピオンに会ってないでしょ」
「うん、今から会いに行くよー」

のんびりと、あくまでマイペースに言うリオにチャンピオンも大変だな、とイツキは苦笑する。今更リオをどうこうしようとは思わないが、リオを想い続けるのは想像以上に大変そうだ。先の部屋にいるであろうチャンピオンに、心の中で手を合わせる。

「(と言うか、俺より先に会ったって怒られそうだ…)」
「イツキ?大丈夫?」
「大丈夫、こっちの話」

そう?と首を傾げながら、リオは大きく伸びをすると、メタグロスをボールに戻した。そろそろ行くのかと道を譲ると、リオは立ち止まったまま鞄をあさり始めた。何をしているのか見ていると、やがて鞄の中から可愛らしいリボンでラッピングされた小さな袋が出てきた。

「はい、これイツキにお土産」

ぽん、と軽い調子で渡すと、リオは「それじゃ、またあとでねー」と手をひらひらさせて次の部屋へ軽い足取りで向かっていった。
残されたイツキはただただぽかんと立ちつくし、リオの姿が見えなくなってからお土産を持っていない方の手で顔を覆った。

「……まったく、チャンピオンが羨ましいよ」

ぽつりと小さく零した羨望の念は、自分以外誰もいなくなった広い部屋に反響することもなく消えていった。掴むための腕なんて、もう伸ばせやしない。


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(0728)