セキエイ | ナノ

虹色の眸


チャンピオンの様子がおかしい。リーグ内ではそんな噂が流れていた。実際にチャンピオンに会った人曰く、毎日カレンダーを見てはそわそわしたり、急に掃除熱心になってみたりと、とにかく落ち着きがない。ある人は「こないだからしょっちゅうリーグを離れてどこかへ行ってるみたいですよ」とまで言うほどだった。

「ワタルさんがフラフラどっか行くのはいつものことなんじゃないですか?」
「まあそうなんだけどね、いつもは見回りって名目もあるし、すぐ戻ってくるんだよ」

それが、最近さっぱりなのさ。何かウキウキしてるし。コトネの問いに、四天王の部屋の入り口に立つ警備員はそう答えた。こりゃ何かあるな、と面白そうに笑う警備員を横目に、コトネとヒビキはそろって首をかしげた。あの、変わってはいるが真面目で仕事熱心なチャンピオンが落ち着きを無くすなんて。何かとお世話になっている二人にとっては心配半分興味半分で、警備員よりチャンピオンに近しい人に話を聞きに行った。



「リオが帰って来るからじゃないかしら」
「誰ですか?」

きょとんとしたコトネとヒビキを見て、カリンはあぁ、と頷き、それから面白そうに笑った。ますますハテナを浮かべる二人に悪戯っぽく笑い、内緒話をするように二人に顔を寄せ、小さな声で二人に耳打ちした。途端、二人の驚きの声が部屋に響き渡った。

「えっえっえっえぇぇー!!!」
「ほんとですか!?」
「二人が知らないのは当然ね。リオは各地方を旅して回ってて、久しぶりに帰ってくるんだから」
「トレーナーなんですか?」
「強いですか!?」

出身は、バッジの数は、どんなポケモンを使うのか、矢のように質問が溢れる。カリンは好奇心に満ちた二人に苦笑し、1つずつ答えていく。

「リオはトキワ生まれのフスベ育ち。チャンピオンの幼馴染よ」
「えーとじゃあ、リオさんもドラゴン使いなんですか?」
「まぁ、ドラゴンは好きで使うわね。でも基本的にはオールラウンダーよ」
「旅ってことはジムバッジを集めてるんですか?」
「そうね、確かカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウは集めたって言ってたわ」

カリンの言葉一つ一つに驚き、ヒビキとコトネは感嘆をもらした。まだ見たことのない女性を思い浮かべ、それから顔を見合わせた。みるみる輝きを宿す瞳が4つ、カリンに向けられる。

「会えますか!?」

声を揃えて発せられた言葉にカリンは微笑み、明日にはリーグに来ることを伝えた。コトネとヒビキは手をとって喜び、また明日リーグに来ると告げると、早速特訓だ!と二人仲良くリーグを飛び出していった。嵐のように現れて嵐のように去っていく。今やセキエイ高原のポケモンリーグ本部の名物と化した光景だった。二人の後ろ姿を見送ったカリンは隣に座るブラッキーを一撫でし、クスリと笑った。

「あらあら…面白くなりそうね」

撫でられたブラッキーは不思議そうにカリンを見上げ、それでも気持ち良そうに一鳴きした。




「はぁー久しぶりのセキエイリーグだね」

カイリューの背から降り、目の前に聳える建物を見上げる。真の強者しか挑戦を許されない、神聖な場所。厳かな雰囲気に自然、背筋が伸びる。そして同時に、言いようのない高揚感に胸がわいてくる。何度訪れても止まらない震えが堪らなく心を満たしてくれる。カイリューを振り返れば、カイリューも同じ気持ちらしく、セキエイリーグの建物を見上げながら高揚感に身を震わせていた。
カイリューと顔を見合わせて、笑う。扉を潜れば、見覚えのある懐かしい風景。ジョーイさんやフレンドリィショップを横目で見つつ、目指すはリーグの入り口。腰につけたモンスターボールを確認し、久方ぶりのセキエイリーグの入口へ足を踏み入れた。


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(0727)