Le ciel | ナノ



inやぶれたせかい  


空間が歪んでいた。
上を見ても下を見ても、右も、左も。同じ景色しかない。
電波なんてもちろん圏外、人なんてもってのほかだ。

つまり、孤立無援。

「………もう、この世界の住人になろうかな」

ポツリと呟いた言葉は応えるものもなく、おかしな世界のおかしな空間に吸い込まれていった。




破れた世界へ入ってどのくらい経ったのか。何時間も経ったような気もするが、案外経っていないかもしれない。動く床足場でグルグルと周り、時に床が横になったり底が見えない下に息を呑みつつ隣の足場に飛んでみたり。
さっきからずっと同じことの繰り返しだ。先も見えなきゃ後ろも見えない。このまま出られなくなったらどうしよう。言いようのない不安が押し寄せる。

「うう…シロナさーん!どーこでーすかー!!」

……………………。

叫んでみても返ってくる声はない。反響することもなく虚しく消えた声は、ただ寂しさを煽るだけ。
手持ち全員出してしまおうかとは思ったが、いつ何が起こるか分からない以上ボールに入れておいた方が安全なはずだ。出せば寂しさは紛れるが、彼らを危険な目に合わすわけにいかない。

…と言っても普段のバトルもあれなんですけどね。

「…でもやっぱり寂しい…」

何かないかな、目を凝らし周りを見渡す。けれど見えるのは同じような景色ばかり。人もいなければポケモンもいない……はずだった。

「あれ?」

下の方に人影が見えた、気がした。もしかするとシロナさんかも、と急いで人影の方へ行くための足場を探す。が、変な仕掛けのせいで、向かおうとすればパッと消えてしまう足場。まるで行かせないと言わんばかりに、迷うリオを嗤うように。
しかし、今のリオはヤケクソも同然だった。わけのわからない組織に巻き込まれ、テンガン山の奥の奥まで行く羽目になり、挙句聞いたこともない世界へ連れて来られたのだ。混乱するよりも何よりも、とにかくイライラして気が短くなっていた。岩場がないなら飛べばいいじゃない。そんなぶっ飛んだ発想も、平気で実行に移せる勢いなリオだった。

「ええい!足場を探してたらまた見失う!」

女は度胸!叫びながら思い切って床のない場所――つまり空間に――に飛び込んだ。何となく死なない気はする。何の根拠もないが、そんな気がした。重力もおかしいのか、それとも感覚的にそう感じてるだけなのか、勢いは感じなかった。ただ、変な浮遊感が体を包む。近づく床に、さてどうやって着地しようか。



ギゴガゴーゴー!

「っ!?」

落ちていく自分の真横を、ギラティナの影が横切った。それと同時に、着地しようとしていた床にしっかりと足がついていることも気が付いた。まさか、と思ってギラティナが通ったであろう所を見るも、すでに影はいなかった。

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(120930)