Le ciel | ナノ



inナギサジム  



「おっポケモントレーナー!ボールの中のポケモン、強そうなのが伝わってくるぜ!」
「…えーと?」

ナギサシティに入ってすぐ、赤いアフロのお兄さん(年はそんなに変わらなさそうだけど)に声をかけられ、目も合ってないのに、人懐っこそうな笑顔で近づいてくる。怪しくもなさそうだし、何より人の良さそうなオーラが出ている。リオは逃げる理由はない、とその場で待機。………目の前に立たれると身長差がすごい。見上げるように顔を合わせると、まるで太陽みたいな笑顔が降ってきた。眩しい。そう思いながら差しだされた手を握り返す。

「俺の名前はオーバ!ポケモンリーグの四天王さ!」
「四天王?何でこんな所に?」
「この街のジムリーダー、俺の親友なんだけどさ、久しく手強い挑戦者が来ないからってポケモンジムの改造ばっかして、挙句の果てに停電させたんだよ」
「あー…」

そういえばそんなことをリッシ湖にいた人が言ってた。そうだ、そのせいでナギサジムを後回しにして、ギンガ団と…あ、何かムカついてきた。不快指数急上昇なリオを余所に「世話が焼けるぜ!」と頭をかくアフロの兄さん、もといオーバさん。面倒くさいと言いながら、それでもわざわざここまで出向く辺りジムリーダーと本当に仲が良いのだろう。微笑ましいなぁ、とリオは小さく笑った。

「君は?」
「私はリオです。シンオウのジムを回りながら、図鑑を作ってます」
「リオ?リオってもしかしてあの?」
「あのって?」

驚いたような顔で「この子かー」とか「なるほど」とか呟くオーバ。ふむふむと上から下まで観察されては居心地が悪い。ううむ、どうしたものかとリオが戸惑っている間に、オーバのリオ観察は終わったらしい。

「そうだな!君ならできるかもな!君!熱いポケモン勝負であいつのハートをがんがんに燃やしてくれよ!頼むぜ!」







「……って言われたはいいけど」

リオはげんなりとした顔で目の前にある大量の――さっきからずっと翻弄され続けている道がついた――巨大な歯車を見つめた。

「どうやったらジムリーダーにたどり着けるのよー…」



まったくもって不可解なのは、ジムの構造。シンオウに来て驚いたのは、どこのジムも何だかやたらと仕掛けが多いことだ。一番最初のクロガネジムは普通だったのに、ハクタイ辺りから仕掛けが気になり始め、最終的にこれだ。せっかく破れた世界から抜け出してきたというのに、何でまたこんな動く床に翻弄されなければならないのか。先日からの溜まりに溜まった精神的・肉体的疲労も相まって、段々イライラしてくる。落ち着け、と心で念ずるも意味は成さず。

「ジムの仕掛けに大分苦しんでいるようだな!」

たまに会うジムトレーナーに、ストレス発散と言わんばかりに容赦なく地面技を喰らわす。もういっそ、ジムごと”じしん”で潰してやりたい。そんな物騒なことを考えるまでに、リオの心は荒んでいた。
なんてったって腐ってもカントージョウトのリーグ覇者、荒んで容赦ないリオの敵は無し。向かってくるトレーナーに鬱憤をぶつけることでどうにか気持ちを抑えている状態だった。

「…大丈夫ですか?」
「これ、全部燃やしていい?」
「そ、それだけは勘弁してください!!」

虚ろな目で、それでもしっかりとした声で恐ろしいことをのたまうリオを必死で止めるジムトレーナー。どうせなら助けてくれればいいものを、ジムの決まりとやらで応援のみ。
いや、応援ならいいのだが、先程のように迷ってることを揶揄するようなことを言ったが最後、ガブリアスの”じしん”でポケセン直行決定だった。

「……っっっ!!あーもう!」

ジムリーダーの居る場所まであと少し。きっとこの道を上手いこと動かせばたどり着ける。なのにさっきから同じ所をぐるぐるしていた。キッとジムリーダー、デンジの方を睨むとさっきから面白そうにリオを観察していた視線とぶつかった。この野郎、ずっと見てたのか。

「デンジさん!この仕掛けどうにかしてくれないとそっちへ行けません!」
「あとちょっとだろ」
「ちょっと!?もうかれこれ1時間はここにいるんですよ!?」
「うん、俺もそんなに迷ってるやつ初めて見た」

悪かったな方向音痴で。いや、この場合は機械音痴なのか。至極面白そうに観察してくるデンジにカチンときたのか、リオはそっちがその気なら、と腰につけていたボールを一つ宙に放った。
出てきたのはシンオウパーティの総大将であるエンペルト。今回は相性的に使うことはない、と思っていたが思わぬところで出番が来た。

「別に、道順通りに行かなきゃいけないわけじゃないですよね」
「…まぁ」
「エンペルト、冷凍ビーム!」

エンペルトの口から出された冷気が、リオのいる足場からデンジのいる場所へ放たれた。…と言うと誤解されそうだが、デンジの立っている床へ、だ。
ぱきぱきと音を立ててできたのは、氷の道。道として成り立つには危うい細さだが、それでもリオ一人が渡るのにはちょうど良かった。エンペルトにお礼を言ってからボールへ戻すと、ひょいと立っていた動く床から氷の道へ跳び移り、そのままデンジの元へ。唖然としているデンジとジムトレーナーなど気にもせず、どうだと言わんばかりにデンジを見上げる。

「っはは!まさか冷凍ビームでここまで来るとは!」
「誰のせいですか、誰の」

笑いだしたデンジにムッとした表情を隠しもしないリオ。普段あまり怒ることはないリオだが、ギンガ団の件に始まり、ついさっきまでの仕掛けに沸点が低くなってるようだ。よっぽどツボにハマったのか未だにくつくつ笑っているデンジを睨む。デンジは自分を睨むリオに気が付いたのか、笑いを収めると改めてリオの方へ向き直った。

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(120922)