Le ciel | ナノ



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「ルクシオ、スパーク!ポッタイシは横からあわ!」

最後の一体を先頭不能にすると、下っ端は素早くボールに戻し逃げていく。
一息つき、辺りを見回してみる。まだそんなに時間は経ってないはずだし、見たところさほど大きな建物でもない。大丈夫だとは思うが、一応急いでコウキとジュンが走って行った方へと向かう。

「ポッタイシ、ルクシオ、まだいけるよね?」

一戦交えた後にも関わらず元気に横を走る二匹が本当に頼もしい。人間とポケモン、種族を超えた友情を感じる瞬間が、最高に心を満たしてくれる。だからトレーナーをやめれられないのだ、と思う。
いくつもの部屋が並ぶ廊下を走り抜けると、ひとつだけ一際大きな話し声のする部屋があった。ポッタイシとルクシオと顔を合わせ頷くと、開け放たれたその部屋へ足を踏み入れた。

「コウキくん、ジュンくん、大丈夫?」
「リオさん!」
「こっちはなんとか…リオさんこそ、大丈夫でしたか?」

駆け寄ると、少ししんどそうながらも相手を睨みつけているヒコザルとナエトルがいた。相手のポケモンが出ていないということは、既に勝負はついているようだった。
二人にきずぐすりを渡しながら、辺りを見回す。先ほど廊下で倒した彼らと同じ髪型、服装が数人。髪型が違う二人は、リーダー格だろうか。こちらを一瞥しながら、しかしこれ以上抵抗する気配は見受けられない。

「おやおや、子供に負けた上、仲間にも追いつかれるとはの…まあ いいさ、電気はたっぷりいただいた。さあさ、マーズや、ここは引き上げるとしよう」
「ウルサイわね!あたしに命令していいのは、この世界でボスただ一人なの!黙ってなさいよあなたは!最近仲間になったくせに、偉そうにしないでよね!」
…じゃ、あたしたちは一先ずバイバイしちゃうから!」

申し訳程度の煙玉を床に叩きつけると、変な服の集団は足早に去っていった。追いかけるか束の間迷ったが、それよりも二人と発電所の人たちを助けなければ。
辺りを見回すと、騒ぎが収まったのを確認しながら、物陰から一人二人と作業員らしい人たちが出てきた。

「とにかくポケモンやエネルギーを集めて、宇宙を創り出すと言っていて…まるっきり意味不明でした」
「宇宙?」
「確かに宇宙人みたいな格好だったな」
「宇宙人のコスプレ…?」

三人で顔を見合わせて首をかしげる。思ったよりも危ない集団なのではないかと、今後の展開に不安が生じる。別の地方に来てまで、怪しい組織と関わるなんてまっぴらごめんだ。
無事に娘さんと再会できたことに感謝されながら、すっかり日も暮れた外へと出た。

「とにかく二人が無事でよかった」
「心配し過ぎだってー!なあコウキ!」
「僕たちも僕たちなりに鍛えてますから!…それでも、リオさんがいなかったらどうだったか」
「うっ…」

思わぬ連戦は、まだ駆け出しのトレーナーにもポケモンにも、負担になったのだろう。少し語調を弱める二人にくすりと小さく笑みをこぼした。

「二人共、チャンピオンを目指すんだったらこんなとこでくじけてる場合じゃないでしょ!」

おどけて言えば、下を向いていた二人は顔を上げる。言葉の意味を理解したのか、顔を引き締めて各々拳を握り締めた。

「よーっし!そうとなれば特訓だ!リオさんありがとな!次会うときはもっと強くなってるから!」
「僕もです!追いついてみせますから!」
「うん、二人共ポケセンには行ってねー」

聞こえているのかいないのか、駆け出した二人の背を見送りながら、一息ついた。
できることなら、あの集団にこれ以上関わらないといいんだけど。まだまだこれからポケモンとの絆を深めて成長していく彼らに、余計なものを見せたくない。かつて自分たちが巻き込まれた大人の勝手に、巻き込まれて欲しくない。
かと言って、私自身そういう組織と積極的に関わりたいわけではないのだ。これからのことを考えると、ついため息が溢れる。
ふと人の気配を感じて顔を上げると、先ほどの集団とは別の、しかし同じくできればあまり会いたくない人物が立っていた。長いトレンチコートを揺らしながら、何やら興奮した面持ちである。

「あ」
「おお、君か!この発電所にギンガ団がいると聞いて飛んで来たのだ!」
「は?…あぁ、もう追い出しましたよ」
「なに!?」

ハンサムさんは、信じられないと言った様子で発電所の中に飛び込んだ。発電所の様子を見て回ったのか、しばらくすると感心した様子で戻ってきた。

「すごい、すごいな!君の言ったことは本当だった!素晴らしい!まだ若くても一人前のトレーナーなんだな!」
「頼りになる二人がいましたから」

手放しで褒められるも、嬉しいよりも何でもっと早く来なかったんだという思いが大きい。国際警察というが、胡散臭い風体と言動が相まって、どうにも信用しきれなかった。悪い人ではないんだろうけど。

「よし!わたしは逃げた連中を追いかけよう!なんでもハクタイにギンガ団のアジトがあるらしいのでな!」

では!というと、ハンサムさんは足早に去っていった。残された私はしばらくぼんやりと後ろ姿を見送っていたが、今日のところは後の心配も忘れてのんびりしようと心に決め、一先ずソノオタウンに戻ることに決めた。


(140514)