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夕闇に溶けゆく


目の前に差し出されたライブキャスターを見て、私は一瞬事態が飲み込めずにいた。ライブキャスターと白いマスターさんの顔を交互に見ると、彼は困ったように首をかしげた。

「えっ、と、もしかしてコレ、君のじゃない?」
「えっあっ、?」

戸惑った声音でようやく事態を理解した私は、自分のどんくささを呪う。慌ててライブキャスターを受け取り礼を言うと、照れたように笑いながら「あのね、」と話し始めた。

「今朝は、せっかく話しかけてくれたのにごめんね」
「いえっ!私こそ、お忙しいときごめんなさい…」

思い出して申し訳なさと自己嫌悪でいっぱいになり、喉の奥がツンとする。カミツレの応援を思い出して何とか耐える。今泣いたら、きっと彼も困らせてしまう。
俯いてただ謝罪する私に、白いマスターさんは困ったような声で私の名前を呼んだ。心臓が止まったかと思うほどの衝撃だった。次の瞬間にはばくばくと動く心臓が痛い。口を開いてもうまく言葉にならず、ひゅうと息を吐き出して終わってしまう。

「名前…なんで、」
「あっ…」

かろうじてそれだけ言うと、彼はしまった、と言う顔をして視線を宙に向けた。あーうーと唸る姿を不思議に思ってみていると、バツが悪そうにちらりとこちらを見て「怒んないでね?」と前置きした。こくりと頷くと意を決したようにじっとこちらを見て口を開いた。

「名前、知りたかったんだ。だからライブキャスターの名前、見ちゃった」

ごめんね、悪気はないし悪用する気もないから、と焦ったように言う彼を、私はアホみたいにぽかんとしながら見ていた。ただの善意だったとしても、深い意味はなかったとしても、名前を知りたかったというその一言がとにかく嬉しくて、必死に堪えていた涙がぽろりと零れた。ひとつ零れると次から次へと止めどなく溢れてくる。ぽろぽろと涙をこぼす私を、白いマスターさんはぎょっとした顔で私の顔の前で手を振る素振りをして見せた。

「えっえっどうしたの?ぼく何かした?どっか痛いの?」

見るからに慌てて矢継ぎ早に大丈夫?痛いの?と質問を繰り返す彼が愛しくて嬉しくて、今までの弱気で逃げ腰な自分が嘘のように気恥ずかしさが飛んでいった。涙でぐちゃぐちゃな顔で向かい合うと、自分が出来る限りの笑顔を浮かべた。泣いていたせいで少し引きつったかもしれない。でも、久しぶりに心の底から笑えた気がした。





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