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「いいか、ここは一度入ったら戻れない。勇気を出して飛び込んでいけ!…ってなんだ、また君か」
「いつも御苦労さまです、と言うか本当に同じことしか言わないんですね」
「同じことって、この台詞を何回も聞く奴は滅多にいないぞ」
「それだけリーグ挑戦者が少ない、イコール四天王は暇。だから私が行くんです」
「なるほどな。ただの荒稼ぎじゃないってわけか」
「ぎっくぅ。まっさかー敬愛する四天王サマをお財布にだなんて思ってませんよ。ねーカイリュー」

冷や汗をだらだら垂らしながら、横に並ぶカイリューに相槌を求める。カイリューはわかっているのかいないのか、嬉しそうに頷く。
隠そうともしない、否、隠せない性格なのか下心が見え見えな挑戦者、リオはリーグの常連だ。滅多に挑戦者が来ないせいで、何時の間にやら顔見知りになった。あくまで顔見知り、だけれど。

「まったく、天下の四天王を財布扱いできるのは君くらいだよ」
「それはちょっと違います。”おまもりこばん”を使うのはチャンピオンにだけです」

そんな心外だ、なんて顔をされてもどう返せと。とりあえずチャンピオンにご愁傷様、と心の中で呟いておく。
そろそろ行きますね、と言うリオに一応応援の言葉をかければ、振り返ることなく手だけ振りかえしてくれた。
気が付けば入口ギリギリの所に興味深そうにするトレーナーたちが集まっているのを散らすことが、いつの間にか日課になっていた。


「ようこそポケモンリーグへ!…ってリオか」
「何ですか揃いも揃って…流石の私も傷つくよー」

傷つくわーとか言いながらまったくそんな顔をしていない辺り図太いと言うか芯が強いと言うか。
ごめんごめん、と軽く謝った後に「今度サイコソーダおごってあげるよ」と言えば「おいしいみずで作った緑茶で」と返される。相変わらず見かけに似合わず渋い趣味だ。

「で、今日はどんなメンバーで来たんだい?」

リーグの常連、という不思議な肩書きをもつリオは、毎日のように挑戦(もはや挑戦なんてものではないが)するわりに毎回少しずつではあるが手持ちが変わっている。
彼女曰く、「毎回同じ手持ちだと飽きるでしょ?」なのだが、正直リオはいるだけでも面白い。もちろん、良い意味で。

「今日はホウエンやホウエンのポケモンを育てようと思ってねー」
「へぇ、珍しいね」
「私も初めて見る子ばっかりだから、今日はちょっと時間かかるかも」
「あはは!僕たち四天王だって毎回負けてばかりじゃないさ」
「それは楽しみ!では早速」

さて何を出してくるのやら。負け続けてるのに何でこんなに楽しみなのか不思議なくらい、リオとのバトルは楽しいのだ。

「さぁって出番だよ!こうてつくん!」
「こうてつくん?」

聞き慣れない名前に思わずオウム返し。”こうてつ”なんてポケモン、いただろうか?
そんな疑問を余所に、リオの放ったボールから出てきたのはメタグロス。リオの言うとおり、確かホウエンのポケモンだった。
「この子、もらった時から”こうてつ”ってニックネームがついてて…初めて見るポケモンだし、いつの間にか種族名より”こうてつ”って名前で定着しちゃって」
「なるほど…」

鋼タイプだから”こうてつ”なのだろうか。そのまんま過ぎる。
ふよふよと若干浮いてるメタグロス自身、その名の方が慣れているのか主人に呼ばれて嬉しそうだった。そういえばリオは懐かれやすいんだった。人にもポケモンにも。
「さぁイツキさんは何を出す?」と言うリオの言葉で我に返り、相手が鋼ならこっちも鋼だ、と先鋒を出す。

「ドータクンかぁ…鋼対決なら負けませんよー」
「僕の専門はエスパーだけどね」
「そういえばどっちも鋼・エスパー…楽しみ楽しみ」

審判に声をかけ、試合開始。
お互いタイプ一致技を出しても大したダメージを見込めない。さてリオはどう来るのか。
リオはしばらくドータクンを観察した後、何か呟くと小さく笑った。
普段なら見れて嬉しい満面の笑みが、今日は一段と恐ろしかった。

「こうてつくん、”じしん”!」



「…負けたよ」
「ふふふ、ありがとうございましたー」

情けないことではあるが、いつも通りの結果。リオはリーグ第一回戦を見事勝ったわけだ。
育てようと思ってねー、なんて言っていたくせに、俗に言う”6タテ”を成し遂げたメタグロスは心なしか得意気にリオの隣で撫でられていた。

「これ以上育てる必要あるのかい?そのメタグロス」
「もらったばかりで私自身扱いなれてないから、その練習って意味合いの方が大きいかな」
「そう…」

これ以上息を合わせてどうするつもりだ。そうは思うが、どこまでもどこまでも駆け上がり続けるのがリオなのだろう。
ネイティオをボールに戻しながらメタグロスにミックスオレを飲ませているリオに近づき、「んー?」と不思議そうに見上げてくるリオの頭を撫でる。

「子供じゃないんですから」
「そんなこと知ってるよ」
「……なんか、あれですよね。頭撫でられると眠くなる」
「あー…ここで寝ないでよ」
「じゃあ手、放してくださいよ」
「はいはい」

はいはいと言うものの、イツキは手を話さない。むっと口を尖らせるリオと、ミックスジュースを飲むメタグロス。およそ真の強者のみが訪れる決戦の場には似つかわしくない風景だった。





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