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ぱたん、と読んでいた本を閉じて窓の外へ視線を向ければ、群青色に染まる空が目に映った。慌てて時計を見れば、19時の少し前を指している。反射的に読んでいた本をカバンに突っ込み、紅茶一杯で5時間近く居座った喫茶店を飛び出した。からん、と軽快な音を立てる扉とありがとうございましたという定員の明るい声を背に、私はすっかり日も暮れた静かな港町へ吸い込まれていった。約束の時間まで、あと5分を切っていた。



いつの間にか降り始めた雪の中を走りながら、待ち合わせのベンチまで走った。全力で走ったおかげで、ぎりぎり一分前の到着である。

「やぁリオ、走ってきたのかい」
「気付いたら、5分ま、えで、」
「そんなに急がなくても、逃げやしないよ」

息も絶え絶えに言葉を搾り出す私を見て、ゲンさんは笑った。膝に手を付きながら息を落ち着け、改めてゲンさんを見やる。いつもと同じ青いスーツを纏うゲンさんに雪が薄く積もっているのを見るに、少なくとも10分以上はこの場にいたようで、申し訳なさがこみ上げる。

「ごめんなさい、待たせちゃいました」

謝りながら、服に積もった雪を払う。サラサラとした雪はいとも簡単に地面に落ちて、アスファルトにじんわりと染み込んでいく。

「そんなに待ってないよ。それより、何を読んでたんだい?」

ゲンさんの視線を辿ると、慌てて突っ込んだせいでカバンからはみ出している、先程までのめり込んで読んでいた本だった。




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多分しばらくしたら短編に突っ込む


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