小話 | ナノ
→→


さようなら、と言ったNはとても清々しい顔をしていた。生まれたときからの柵から解放された彼は、今まさに生まれ変わろうとしている。瓦礫の間から差し込む光の中に立つNは、光にも負けない輝きを瞳に宿していた。
とても別れの間際とは思えない、いや、思いたくない光景だった。レシラムの背にまたがるNに、しかし私には引き留める権利などありはしなかった。彼は、彼自身の意志で旅立とうとしている。彼は私のお陰で変われたと言ってくれた。その私が彼を止めることなど、できるはずないのだ。

「…N、知ってる?」
「…?」

きょとんとした顔のNは、出会ったときから変わらない、純粋な人だ。Nの顔を見たら胸の内から色んな感情が込み上げて、涙が出そうになる。でも、ここは笑って見送りたい。それが私がNにできる手向けの贈り物だった。

「さようならって言葉はね、また会う人に言うんだよ」

だから、またね。出来る限りの笑顔で言うと、レシラムの背の上で振り向いたNは、一瞬目を見開いたあと、今まで見たことのないような綺麗な笑顔で空へと飛び立った。

レシラムの羽ばたく音と風の吹き込みで目を閉じ、次に開けた時にはもうNたちの姿はなかった。

「…こちらこそ、ありがとう」

確かに聞こえたNの感謝の言葉に、堪えていた涙がこぼれ落ちて、Nの旅立った空に吸い込まれていった。







----------------------------------
さよならは再開の挨拶だと聞いて



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -