*シズイザ










来良高校屋上。
満天の星空を天井に冷たいアスファルトに寝転がる二人の男。彼らの服はボロボロで、顔から胸元に至るまで、服から覗く素肌には漏れなく生傷が刻まれている。恐らく喧嘩の後なのだろう。

「さて、体力も回復したし…俺はそろそろ退散しようかな」

今の今まで、互いの呼吸が聞こえるだけだった静かな空間に声が落ちた。同時に、黒髪の青年がゆっくりと上半身を擡げ、立ちあがる。パシパシとコートを叩けば僅かに埃が舞った。金髪の男はと言えば、チラリと其方を見やるだけで何の反応も示さない。その間にも、青年は男の視線を歯牙にもかけぬまま足音を響かせ校舎内へと通じる扉に向かう。


「Я люблю тебя」


突然。それは突然の言葉。
およそ日本語ではない言葉がその口から漏れた。
ピクリ、と男の眉が動く。しかし青年はそれに気付かない。

それもその筈。青年が発したその言葉は確かに男に向けて発したものではあるが、ただそれだけだ。それが伝わるという前提のものではない。寧ろ、彼は恐らくそれが伝わらない事を前提でその言葉を発した。だから、青年は男が発する次の言葉を想像する由も無かった。


「Я тоже тебя люблю. Izaya」


その言葉が吐かれるのが早いか否か。ピタリ、と青年――臨也の足が止まる。
言葉が返ってきたという事は、少なくとも自分の発した言葉が通じていた証拠だ。
ゆっくりと振り向いたその瞳は僅かに開かれている。

「何で、君がロシア語なんか喋れるのさ。シズちゃん」

すると男――静雄は何を答えるでもなく、ゆっくりとした動作で立ちあがり、カツ、カツ、と音を立てて臨也へと近づく。臨也はただ、それを見守るだけ。徐々に縮まりゆく二人の距離は、僅か50センチメートル。その身長差からか自然と静雄は臨也を見下ろすようにしながら、言う。

「サイモンに教えて貰った」
「そうじゃない。俺が聞きたいのは、どういう風の吹き回しでロシア語を覚えるに至ったのか、ってのと、さっきの言葉の内容」
「…サイモンが、ロシアなら男同士で結婚できる、つってたから」

瞬間的に、臨也は二の句を失った、
驚きを露わにする赤い瞳は、仄かに頬を染める静雄を反射させる。

それは確かに告白だった。否、プロポーズだと言っても過言ではない。
臨也が互いの関係を壊さぬ為に、ずっと心の奥深くに抑え込んでいたそれを静雄は容易く口にした。
二人の間に再び訪れる静寂。先に口を開いたのは静雄だった。

「俺、高校の時からずっとお前が好きだった。でもよお、仮に俺がお前と付き合えたとしても…日本じゃ男同士で結婚できねえだろ?そしたら結果的には別れなきゃならねえ。だから、サイモンからお前がロシア語を話せるのを聞いて、俺も話せたら…将来はロシアに移籍すりゃ結婚できるんだろ?」

何の躊躇いもなく紡がれるそれは、まるで臨也が自分を好きだという事を前提としての口上。
彼がそう確信したのは勘か否か。どちらにせよ、臨也も静雄を好いている事は事実。断る理由はない。

「…いきなりプロポーズだなんて…、最初は普通に付き合うところからいこうよ」
「るせえ。どうせ将来的にはそうなるんだから別にいいじゃねえか」
「…あっはは。相変わらず横暴だよね、シズちゃんは。毎回毎回俺の予想の遥か上を行ってくれる。これだから君といるのは飽きないよ」
「…で、返事は?」
「……。一度しか言わないから、聞き逃さないでよ?」



俺と、結婚を前提に付き合って下さい




Я люблю тебя
(それは返事と趣旨が違うだろ)
(やだなぁ、最初に“愛してる”って言ったのは俺だよ?)





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