*月六








午後3時10分。
定刻になると寸分の狂いもなく、六臂のフォルダへと向かうのが月島の日課である。

「今日もこれ、お願いしますね」
「…ん。月島、今日も御苦労さま」
「六臂さんも、毎日お疲れ様です」

目的は臨也へと寄せられたメール、とりわけ仕事絡みのメールを六臂に渡すのが彼の役目だ。
そして今日も、彼は肩から掛けられた鞄を漁り十数通ものメールの山を六臂へと手渡す。

――臨也のパソコンツールである彼らは各々の能力に応じた仕事を与えられている。月島は臨也へと寄せられる全メールの管轄、及び一部のメールの配送。六臂は臨也の仕事の補助、及びデータ整理。他にも、サイケや津軽、そしてデリックや日々也と言った者もいるが今回は割愛させて貰おう。

六臂が手渡されたメールの差出人をチェックしているほんの数十秒もの間、月島はじっとその様子を見守る。
これは最近、六臂が気づいた事だが長いマフラーで隠れた口許は何かを言いたそうにもごもごと動く。サングラスの奥の瞳は何かを伝えたい気持ちでいつも一杯だ。しかし彼は決して、その何かを口に出そうとはしない。
六臂も六臂でそれは気付かぬふり。ただ、少しでも猶予時間を稼いでやろうとゆっくり差出人をチェックするが、やはり何も言い出さない彼。これ以上の助け船は無意味。
そして今日も、彼が決断をするより先に六臂が別れの言葉を吐きだした。

「それじゃあ、俺はまだ仕事の途中だから。またね」





翌日。

「今日もこれ、お願いしますね」
「…ん。月島、今日も御苦労さま」
「六臂さんも、毎日お疲れ様です」

同じ時間、同じ場所、繰り返される同じ会話。
此処まではもう何をどうあがこうと変わりはしない。
そして今日もまた、もどかしい十数秒もの時間が過ぎて別れが来る。
メールの束を確認しながらそんな事を思う六臂。結局、今日も何も言い出さなかった目の前の彼に別れの言葉を告げようと口を開きかけたその時だった。

「あの…六臂、さん…。少しだけお時間…いいですか?」

僅かに震えた酷く小さな声が耳に届き、反射的に出かかった言葉を飲み込む。
一瞬、空耳かとも考えたがこんな毎日聞いた声を聞き間違える筈もない。
驚きと期待を込めた目でじっと此方を見つめる六臂を、月島は承諾ととったのかごそごそと鞄を探り、一通のメールを彼に差し出した。
六臂は当然、いつもの癖でそれを受け取り宛名と差出人を確認する。
書かれていたのは六臂と月島の名前。

「月島から…俺に?」

確認するように視線を月島へと移せば一度だけ縦に頷く彼。
それは今まで業務用のメールしか受け取らなかった六臂が初めて自分の為にと受け取ったメール。厚さからしてみれば今までのメールとは比べ物にならない程薄いが、それでも嬉しいのか、滅多に崩れないポーカーフェイスが僅かに緩んだ。

「ありがとう。後で読んでおくよ」
「あ、あの…!良かったら、今、読んで欲しい…です」
「…今?」

いつも消極的な月島が今日は珍しい。
本当なら後でゆっくり開けるつもりだったが、仕方ない。急かすだけあるのだからきっと急ぎなのだろう、と封を解いて中身を確認する。そこに添えられたのはたった4文字。



好きです



そのちょうど真ん中、控え目に書かれたその言葉に流石の六臂も目を見開いた。
ここで、何が?等と聞くのは野暮だ。その目的語が何であるかは、目の前の月島の様子を見れば一目瞭然。

長い沈黙が続いた。予想だにしなかった告白に驚きを隠せない六臂と、気まずそうにしながら今にも逃げだしてしまいそうなの月島。先に口を開いたのは六臂だった。

「……月島。これ、本気で言ってるの?」
「…はい。お、俺…ずっと六臂さんの事が好きで、でも…言えなくて。それで…やっと…決心がついて…」
「……そう。それなら…今、この手紙の返事をしてもいい?」
「…え?あ、は…はい!」

その申し出に今度は月島が驚く番だった。
まさか今すぐに返事を貰えるとは思っていなかった。心の準備ができていない。それでも口は勝手に肯定の返事を口にする。六臂は一度だけ深呼吸をして、口を開いた。

「俺も…好きだよ、月島」

出会って数ヶ月、初めて六臂が月島に見せた笑顔。
月島がその笑顔に見とれる間もなく、二人の唇はゆっくりと重ねられた。




告白メール
(…六臂さん、キス…するなら言って下さい)
(だって、先に言って怖気づかれても困るし)


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