*津サイ





手を繋ぐ。一緒に遊ぶ。互いの部屋に泊まる。
友人らしいといえばらしい事はしつくした。
それどころか、軽いスキンシップ程度に抱きしめたりも日常茶飯事。
正直、友人という枠は超えていると思う。
だからこそいい加減、友達以上恋人未満の関係から脱却を果たしたい。

そして今日こそ、その目的を果たすべく津軽は大きく意気込んだ。





「マスター、サイケのメンテナンスはあとどれくらいかかりますか?」
『もう数分で終わるってば。ていうか今日になって何回目だよ、その質問』

二次元と三次元の狭間――電脳空間。
そこに浮かぶディスプレイに映し出された臨也の姿を見上げ、津軽は期待を孕んだ声を発した。
臨也はと言えばマウスやらキーボードやらの音を立てながら、パソコン画面に映る津軽に向けて声を発する。
これが電脳空間と実世界に住む彼らの唯一の連絡方法だ。
そして、津軽は同じく電脳空間に住まう存在の一人であるサイケの帰りを1週間、待ち続けている。

1週間前から津軽はサイケと会っていない。
原因は折原臨也、彼らのマスターだ。こう言うと聞こえが悪いが、実際のところは彼がサイケのメンテナンスの為にそのフォルダに鍵を付けてしまっただけの話。
そして今日、ついにサイケのメンテナンスが終わるという事で津軽は小一時間も前からそわそわとサイケのフォルダの前をうろつき、臨也に今か今かと同じ問いを重ねている訳だ。

『…っと、これで大丈夫なはず。津軽、もういいよ。今からサイケのフォルダの鍵開けるからちょっと待ってて』

第一声は何をかけよう、だとか、どうやって告白しよう、だとかを考えているうちに、ついにその瞬間が来た。待ってましたとばかりにパッ、と顔を上げた津軽が口を開く。

「本当ですか?マス」
「つーがる!」

嬉々とした津軽の言葉を遮り、可愛らしい声が場に響いた。それと同時に彼の体に衝撃が走り、幾秒か後には尻餅を付く結果となる。しかし、しっかりとその原因を抱えた腕の中には待ちに待った待ち人の姿。

「サイケ。……いきなり飛びつくと危ないだろ?」
「えへへ、ごめんねー。久しぶりに津軽に会えたと思うと嬉しくなっちゃって」

無邪気な笑みを浮かべながらも僅かに眉をハの字型に下げて謝るサイケ。
ぎゅ、と心臓を鷲掴みにされる感覚を覚える津軽。
腕の中で甘えるように頬を擦り付けてくるサイケを大事そうに抱きしめながらチラリ、と上空のディスプレイを一瞥すればそこにもう臨也の姿はない。今こそ告白の時。彼は場の雰囲気を察したのであろう臨也に内心で感謝の意を示しつつ、目的を果たす為にと大きく深呼吸して口を開いた。

「サイケ」
「なあに?津軽」
「お、俺の事…どう思ってる?」
「津軽の事?俺、津軽の事は好きだよ!」

てっきり少しは無言の時間が流れるものだと覚悟していたが、返事はやけにあっさりと返ってきた。拍子ぬけるというよりも、にこりという擬音が似合いそうなその笑みに津軽は内心でグッと拳を握る。
自分もサイケが好きである以上、これはもう恋人関係が成立したという事だ。これで恋人にしかできない事だってできる。
彼の脳内で繰り広げられる文字通りの薔薇色の未来。しかし所詮、妄想は妄想。現実とは違う。

「それから…臨也くんも、静雄くんも、それから月島くんも六臂くんも、日々也くんもデリくんも好き!」

天国から地獄とは正にこの事。同じ笑みなのにどうしてこうも違うものに見えるのか。先程までは可愛らしく見えたそれも、今は少しだけ憎い。何せ、ほんの数秒前に成立した念願の恋人関係は、何かをする前に友達関係へと戻ってしまったのだから。
かといってサイケを責めるのは筋違い。残念だが仕方がない。サイケが自分だけを好きと言ってくれるまでは、もう少しこの関係を続けよう。
一気にクールダウンした心で冷静に、そんな事を思いながら内心で溜息を吐く津軽。消沈する彼に、サイケの第二句が発せられた。

「でもね、俺は津軽の事が一番好きだよ!他のみんなは友達としてだけど、津軽の事は恋人として好き!」

そしてその言葉は、当然の如く津軽を困惑させる。
恋人?俺とサイケは友達じゃなかった、のか?そう思っていたのは俺の方だけで、実際はもう恋人だった…?
ごちゃごちゃとした考え。頭を抱えて悩む彼に、津軽?大丈夫?頭、痛いの?とサイケが心配そうに眉を下げる。自分を見つめる、くりくりとした綺麗なピンク色の瞳。一人で悶々と悩むより聞けばすぐに答えが出る。そこで彼は今一度勇気を振り絞り、問うた。

「サイケ、俺とお前は恋人…なんだな?」
「…え?違うの?」
「…いや、違わない」

いつから恋人だったのかは分からない。分からないが、今この時、自分達が恋人ならばそれでいいと、津軽はそれを確かめるようにぎゅっと恋人の体を抱きしめた。








無自覚な恋人
(津軽は俺の事、好き?)
(ああ、俺も…サイケが一番好きだ)







―――――

まだ友達だと思ってた津軽と、もうに恋人だと思ってたサイケ。
次はデリ日々です。
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