*友情出演、津サイ





「つーがる!」
「なんだ?サイケ」
「キスしたい!」
「ん、わかった」

俺の目の前でいきなり濃厚なキスを始める兄ちゃんと津軽。
その様子をソファーの背もたれからじっと見ている俺に気付いた兄ちゃんはどうだとばかりに目を細めた。

(あー…腹立つ。俺への当てつけかよ、チクショー)





俺達には各々、運命の人と呼ばれる相手が存在する。臨也と静雄がそうであるように、兄ちゃんと津軽がそうだ。だから俺にも運命の相手がいる。それは確かなのに、まだ現れない。かれこれ数ヶ月待ち続けているのにまだ現れない。
そんな訳で、今の俺は絶賛孤立中。右を向けばオリジナルがいちゃいちゃ、左を向けば兄ちゃん達がいちゃいちゃ。視界への暴力も甚だしい。なのに隣を見ても誰もいない。一体俺はいつまで独り身でいれば良いんだか。

以前、マスターに俺の相手について尋ねた事はあるけど結局判ったのは容姿だけ。それも俺が静雄に似てるから相手も臨也に似てるんじゃないかという不確定な事実。名前も、性格も判らない。まあ、臨也似なら顔やスタイルは良い筈だ。性格は兄ちゃん側に転ぶかオリジナルに側転ぶか、はたまた全く別なのか。そこは成るようになれというわけだ。



***



「っとに…少しは俺の気持ちも考えろ、ってのリア充どもが」

今日は家でのんびりとDVDでも見ようとしてたら奴らに邪魔だと追い出された。お陰で行き場のない俺は途方もなく散歩に出掛けることに。どうせ町に出ても町はリア充どもで溢れ還ってるに決まってる。そうなれば足は自然と郊外の河原へと向いていて、気付けば昼下がりの河川敷を歩いていた。

「視界どころか精神的暴力まで震いやがって。リア充なんて爆発すればいい」

別に少しばかり町に出てキャバクラだか何だかで女遊びをしても良かった。偽りの愛ってのを感じても良かった。でもこう見えて俺は一途だから恋人になる前から浮気だか何だかはしない。俺の愛は運命の人一人に捧げるもの。だから余計に、その対象が居ない今の状態が辛い。

ああ、本当に何処にいるんだか。俺の運命の人は。

虚しいのと疲れたので溜息を吐き出す。溜息をついた所で何も返ってこない現状に寂しくなるだけ。結局は何も解決しない。
そんな俺の寂しさに拍車をかけるように明るいキラキラとした陽射しが体を照りつける。こんな天気の良い日に二人きりで散歩できたら幸せなんだろうな、なんて思えばまた漏れる溜息。これはもう無限ループの予感。そんな鬱ループに陥ってたまるか。
そんな折、俺の視界に一本の大きな木が映った。
そうだ、あの木陰で一眠りしよう。そうすれば少しはこの気持ちも落ち着くに違いない。

「……先客かよ」

そして木の下まで足を運んで気付いたことがある。
黄色いマントにくるまって眠る人物がそこに居た。見るからに西洋風の衣服に身を包んだその姿は異国の者にさえ思える。近くに置かれた金色の冠とその格好からしてどこぞの王子様らしい。
気付けば俺は微風にそよぐ艶やかな黒髪に手を伸ばしていた。触れた髪はまるで絹でも梳いているかのようなサラリとした感覚が心地いい。
そうなると顔も見たくなるのが人間というもので、少し顔を見る程度なら浮気にはならないだろうと自分に言い聞かせてそっと顔にかかる髪を退けた。そもそもコイツは女じゃないから問題無い。
自分に言い聞かせてそっと髪を払えば、女とも見間違う端整な顔が覗いた。肌は白く、睫は長く、淡く色付いた唇は色っぽい。傾国の美とは正にこの事。看取れた末に思わず言葉を失った結果、沈黙の後に出た言葉。

「俺の、運命の人」

臨也とそっくりな顔をしたコイツはきっと俺の運命の人。いや、絶対にそうだ。と言うことは、コイツにとっても俺が運命の人。俺にもやっと、恋人が出来たわけだ。今なら思う、散歩に出て来て良かった!リア充万歳!

「…うるさい。寝れん」

そんな事を思っていたら不機嫌そうな寝ぼけた声で俺は我に還った。

「さっきからブツブツうるさい。何なんだ、お前は」
「え?あ、…声に出てた?」

どうやら思っている事が口から出ていたらしい。不機嫌そうに眉を寄せ頷くのを見ればわかる。

「いやー、悪い悪い。俺はサイケデリック静雄。まあ、大抵の奴はデリックって呼ぶけど好きなように呼んでくれて構わないからさ」
「お前の名前なぞどうでも良い。俺は、お前に何の権限があって俺の睡眠を妨げたのかを聞いてるんだ」
「え、だってお前は俺の運命の相手で…」
「だからなんだ」

ピシ、と俺の心に罅が入る音を聞いた。もしも目の前の王子様が運命の相手で、俺と会うことを心待ちにしていたとしたらこんな反応はまず返ってこない。
もしかして俺の勘違い、か?
いや、そんな筈はない。この艶やかな黒髪と言い、整った顔と言い、申し分ないスタイルと言い、間違いなくオリジナルの“派生”というやつだ。それに『だからなんだ』という発言は別に俺の言葉を否定してはいない。

「…えーっと…、お前の睡眠を邪魔したのは謝るけど、よ。1つだけ答えてくれね?お前は俺の運命の相手…だよな?」
「…お前の容姿からして、生憎だがそうなるな」

しっかりと聞こえた肯定の言葉。やっぱりそうだ。ファーストコンタクトは失敗したがこれから恋人同士になるんだからこれ位の失敗すぐに挽回してやる。

「たが、俺は運命に従うつもりはない」

気を取り直して、なら名前を教えてくれねえかな、と開きかけた口を遮り聞こえた王子様の一言。今度こそ俺は耳を疑い、言葉を失った。何せ今、俺は告白するよりも先に振られてしまったのだから。それもあろうことか、運命の相手に。

「デリックと言ったな……。もしもお前が本当に俺を恋人にしたいのであれば、それ相応の努力をしてみせろ」

ぽかんと呆けたままの俺を傍目に王子様は白馬に跨り遠くへと駆けていく。結局、最終的に行き着く場所は津軽と兄ちゃんと同じ場所だとは解っているから今は追いはしない。そもそも追い掛けたところで馬には適わない。
そんな事よりも、取り敢えず頭の整理を付けるのが先決だ、と俺はさっきまで王子様が居た草の上に寝転がる。まだ少し温かいその場所は妙に心地良かった。同時にそよそよとした涼しげな風が俺の頭から熱を奪い冷静にさせる。
それでも辿り着いたのは結局、自分の力で一から振り向かせるしかないという至極簡単な答え。

「ったく……津軽と兄ちゃんはすぐにくっついた、ってのに俺は難攻不落かよ」

そう考えたら妙に苛ついてきて、もやもやした気持ちを払うように俺はガシガシと頭を掻いて本来の目的の為にと瞼を下ろした。









難攻不落







―――――

日々也さまを頑張って落とすデリックの話が読みたい。




20110625


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