俺は折原臨也に作られたアンドロイド。
名前はPsychedelic Dreams:02。マスターには、デリックと呼ばれている。
そんな俺の仕事はマスターの仕事の手伝い。言わば助手というわけだ。
そして、俺には人間の三大欲である食欲、睡眠欲、性欲こそ無いものの感情プログラムだけは内蔵されている。
以前マスターに、何故感情プログラムだけは内蔵したのかと聞いたら、幾らアンドロイドとはいえ感情も無い生命体と暮らすのはつまらないからね、と答えられた。



俺がマスターに作られて1年。最初は粗相ばかりで呆れられてばかりだったが最近では大分慣れてきて、コーヒーをいれたり、部屋の掃除をしたりと言った雑用意外にも仕事に直接関わる仕事も任せられるようになった。それが俺の役目であり生きる目的でもあるのだから、マスターの役に立てるのは正直面倒臭い反面でかなり嬉しかったりする。
でも、俺は知っている。マスターには好きな人がいて、俺はソイツそっくりに作られたという事を。
マスターが池袋に行く理由だってソイツに会う為だ。仕事の為じゃない。そして池袋から帰ってくるマスターはボロボロで、酷い時なんかは今にも泣きそうな顔をして帰ってくる。そんな時、決まってマスターは俺に胸を貸せ、と言う。そして俺の腕の中で小一時間ほど泣きじゃくって泣きつかれた子供のように眠りに落ちる。
つまり俺の本当の存在意義は仕事の手伝いなんかじゃない。俺は、マスターの心の隙間を埋める為の、癒す為の、慰む為の存在。



そしてこの日も、マスターは身も心もボロボロの状態で池袋から帰ってきた。



「…ただいま」
「お帰りなさい」

マスターが家を出て僅か2時間。此処を出た時は意気揚々としていたのに、今は意気消沈として項垂れている。
この短い時間で何があったのか、何て聞かなくても解る。多分、いや、確実に静雄と酷い喧嘩をしてきた帰りだ。その証拠に。

「デリック、少しだけ胸、貸して」

ほら、今にも泣きそうな顔を上げてよたよたと俺の元へと歩んで来た。こういう時、何も言わず腕を広げるのが了承の合図。
マスターは一度だけ頷いてすっぽりと俺の腕の中に収まって肩口に顔を埋めた。
本当は何か言葉を掛けるのが普通なんだろうけど、アイツと同じ声で言葉を発するのは好ましくない。下手をすればマスターを余計に傷つける。俺にできるのは慰めるように優しく髪をなでてやる事だけ。

(あーあ、今日はいつもにも増して酷えのな)

ひっく、ひっくと押し殺される嗚咽だとか、かたかたと震える体だとか、肩口に感じる冷たい涙だとか。こっちまで辛い。胸が痛い。苦しい。何もできないのが歯がゆくてギリ、と奥歯を噛む。所詮俺はアイツの代替品。どう足掻こうともアイツにはなれない。

そして今日もいつも通り、泣きつかれたマスターは知らず知らずのうちに眠りに落ちる。嗚咽が聞こえなくなったらその証拠だ。そうしたらゆっくりと、その軽い体を抱えて2階のマスターの部屋のベッドに寝かせる。ここまでが俺の役目。
そう、これは仕事の一環だ。もしも俺に感情プログラムが無かったなら、機械的に事を終える事ができるのに、生憎俺は感情を持つロボット。そうはいかない。

「なあ、臨也…。泣くなら思い切り泣いちまえよ。プライドも恥も外聞も何もかも捨てて、ガキみてえに俺に縋れよ」

最近、気付いてしまったんだ。俺はマスターに惚れてしまったという事を。だから、マスターの役に立てれば嬉しいと思う。マスターが泣けば悲しいと思う。マスターがアイツに似せて俺を作りだした事がこんなにも、辛くて、虚しくて、寂しい。

「俺ならアイツと違ってアンタを愛せる。顔も声も同じなんだ。別に俺でもいいじゃねえか。それに聡いアンタの事だから…俺の気持ちなんてとっくに気付いてんだろ?…なあ、臨也。こんな辛い思いさせるなら、最初から感情なんてプログラム、無しにしとけよ」








AIの反乱
(恋なんてプログラム、なかったのに)







―――――

シズ←イザ←デリ、みたいな。
デリックは基本マスター呼び。臨也が聞いてない時だけ名前呼びだと萌える。


20110522

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