残像




暑いね、って口にすればそのすぐ後に同意の言葉が返ってきた。ミーンミーン、と鳴き止むことを知らないように蝉達は一斉に鳴いている。そうだ、確か蝉の寿命は7日と聞いたことがあったなのに一夏中鳴き声が止まないのは何故だろうかとふと考えてみた。がそんなもの深く考える必要なんてなくて、只一匹の蝉が7日生きて、死んでしまって鳴き声は途絶えるけどもまた次の他の蝉が鳴き出して、の繰り返しなんだと。だから途絶えていないように聴こえるんだが実際は蝉の鳴き声は少しずつ聴こえなくなってゆく。だって、ほら、知らない内にぱったりと鳴き声は途絶える。それにはっとして気付いて「嗚呼、夏は終わったんだな」と思うんだ。


「…溶けちゃいそう」

「じゃあ、溶ければ?」


「ひどい…」

あっつ、ぽつりと呟いてパタパタと団扇で煽るトウヤくんは凄く、いや少しだけ色っぽかった。普段ツンツンとしているがこの暑さからなのか普段以上にツンツンし出しているトウヤくんに今そんなことを言ってみろ。胸を貫くんじゃないかってほどのキツい言葉が待っているに違いない。もしくは無言で団扇が飛んでくるかもしれない。


「…なに?」

「い、いや何でもないよっ」

「ふうん、そんなに俺の怒りを買いたいわけ?」

「め、滅相も御座いません」

「なら、さっさと言え」

「…う、あ…は、はい…」


ブラックなトウヤくんにぎりぎりと腕を掴まれて、強制的に言わされる羽目となった。痛い、凄く痛いけど前に痛いって言ったら「名前にはちょうど良いんだろ?」なんて笑顔で言われて何も返せなかった。だって、あの笑顔で言われちゃ言葉も涙も出ないよ。泣く子も黙るって言うじゃない?勿論、恐怖で。


「トウヤくんが、な…なんかちょっとい、色っぽかったなーなんて、冗談なんっ…痛い!」

「なにそれ。そんなこと考えたんだ?」

「ち、ちょっとなんだってば!痛い痛い痛い!う、腕千切れちゃうよ!あああ暑いし!」

「こんなことで千切れる訳ないだろ、本当名前って馬鹿」


まるで千切れるんじゃないかってほど腕を引っ張られてもう涙目になりながら言っても聞いて貰える筈がなくて、引っ張られた腕に伴って身体はトウヤくんの方に向かって行って、この暑さだと言うのに力一杯に抱き付かれてしまう。嬉しいけどクーラーもなく扇風機だけにして抱き付かれるのは暑く軽く痛い。一体どんだけの力で私を抱き締めているんだろう彼は。


「いい、痛いっ…まず暑い」

「うるさい、黙って。」

「ちょ、そんなの酷いよ!」


私の言葉なんて全くの無視で逆に力は徐々に強くなってゆく一方で暑さや痛さにプラスして苦しさも私を襲いだした。駄目だ私死ぬ。窒息で死ぬんだろうか?なんて頭の中で考えていれば突如首筋にぬるっと生暖かいものが伝った。


「ひっ、!」

「あれ、どうかした?」

「ちょ、嘘。トウヤくん?」


先ほどの表情とは打って変わり何やら楽しそうな笑みを浮かべたトウヤくんが見えた。それに嫌な予感しか浮かばなかった私は顔色が数段悪くなったと思われる。

「良いだろ、どちらにせよ暑いんだし。」

「む、無理無理!暑い!死んじゃうってば!」

悪魔の笑みを浮かべるトウヤくんはべろりと私の首筋に舌を這わせてきたかと思えば唇に軽いリップ音を鳴らしたキスを落として、暴れて抵抗する私なんて簡単に抑え付けてしまう。プラスされた恥ずかしさから顔がまるで茹で蛸のように赤くなり熱くなる、それに半分気を失いそうになりながらトウヤくんから繰り出される刺激に耐えることしか私には出来なくて只、激しく繰り出される刺激とは違い軽く鳴らされたリップ音のみが私の耳にずっとこびり付いたままだった。


残像 (20120807)




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