王を語る





「……っうぐ」

私の呻き声が小さく響き渡った。苦しくて辛くて、涙が出てもう死んでしまうんじゃないかなんて大袈裟に考えてしまったが今の私には本当に死んでしまうような気持ちだった。

ゲホッ、と勢い良く吐き出された血液は重力に従うように地へ落ちる。腕はまるで手錠のような鎖によって身動き一つも出来なかった。左目も酷く腫れているようで何も見えずじまい。どうして、私がこんな目にあっているのか…理由は自分が一番理解していた。



「…っ、」

ガラッと荒々しい音を鳴らして扉が開かれた。それまで光も無かったこの小さな空間に僅かに光が差し込むもののそれは一瞬にしか過ぎなくて。光が無くなった分腹辺りに酷い衝撃を食らう。「がはっ…!」勢い良く吐き出された血液は私の顎を伝い地へとまた落ちる。

「起きろ」

「っ、…っう」

なんて、乱暴な起こし方なんだろうと目を開くが目の前は霞んでいて良く相手の顔が見えない。目を開いた私に気づいたらしい相手は只一言、「飯だ」と言葉を放ったかと思えば乱暴にそのご飯らしきものを放り投げた。当然べちゃりと音を立ててぐちゃぐちゃになったご飯に涙が込み上げる。

こんなものを私に食べろって言うの?いや、でも…これでも食べられるんだからまだ救いなのだろうか?なんて考えながらゆっくりとそのぐちゃぐちゃになったご飯に手を伸ばし一掴みしては口に運んだ。味なんてとても分からなくて変わらず鉄の味が口の中に広がっていてまたそれが虚しい。



醜いなんてそれは一番私が分かっていることだ。「えぬさま…」自然と呟かれた言葉に涙が誘われた。えぬさまNさまN様…何度も何度も彼の名を呼ぶが返ってくるものは何も無かった。私が何故こうして、酷い仕打ちを受けているのか。それは私が誤解された元プラズマ団に誤解を解いて貰おうとしたからだ。彼らは揃って口にする、"N様は自分達を裏切った"と。それは、違う…N様は自由を手に入れたのだと私は彼らに言ったがこんな小娘の話などに耳を貸す者など居らず。だが、ひつこく口にした私は彼らの怒りを買いこのような仕打ちを受ける形となった。


後悔、なんてしていない。私はただ真実を述べたのだから、私は何故彼らはN様が裏切ったと言いきれるのかがわからない。二年前とは違うプラズマ団は人からポケモンを救うのではなく、人もポケモンも苦しめている。ポケモンを道具と嘲笑う彼らに最早二年前の面影など皆無だった。

そんな彼らに何故今も私が口を出すのか、"N様が悲しむ"只それだけで。もし、N様が帰って来られた時に今のこの有り様を目にでもしたらと思うと怖くて怖くて仕方がなくなる。だから一刻も早く彼らに思い直して貰わなくてはならない。


「…っ、だれ、か…」

ずるずると悲鳴を上げる身体に鞭を打って地を這い堅く閉ざされた扉を力一杯叩き声を上げた。早く、彼らに思い直して貰って罪を償って貰って、そして――――


「…誰か聞いて…下さい!」


情けない掠れた声が牢獄内に響き渡る。誰もなど聞いていないことは百も承知だ。だけど、もし通りかかったりして少しでも私の声を言葉を聞いてくれる者が居たとするならば、そんな期待だけが私を奮い立たせた。


「N、さまは…N様は…!」


この身が滅びるまで、私は何度も何度も愛しき王をこの口で語る。それが、私がN様に出来る唯一のことなのだから。



王を語る (20120807)




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