トワイライト





"あいつは一体何をしているんだ"そう呟くようにして口にしたチェレンに私は苦笑いを浮かべる、そうすれば呆れたかのように大きくため息を吐き出した。本当にチェレンが言った彼は何をしているんだろう。こんな危機だと言うのに彼は何処にいるのだろう。連絡も何もかも途絶えてしまっている今、彼の行方は分からない。


「本当に何してるんだろう」

こんな大変なのにね、なんて笑って言えばチェレンは何も言わず不機嫌そうに私を見た。こんなに不機嫌そうなチェレンの表情を見たのは一体いつ以来なのだろう、そう考えれば何故か自然と笑みが浮かぶ。

「名前も置いて、さ」

「え、?わたし?」


はあ、と吐き出されたため息と共にチェレンが発した言葉に疑問が浮かぶ。どうしてわたしを置いてなんて言うの?――チェレンの表情はやはり何処か不機嫌だ。わたしに目を合わそうともしないチェレンはもう消えてしまいそうな夕陽を見たままだ。


「不機嫌だね、チェレン」

「それを分からない名前が悪いよ」

「…わたし何かした?」

"そう思ってるなら尚更だよ"と言うチェレンにむっとして思わず何を言いたいの、そう口を開こうとしたが上手く口が開かなくて、口を閉ざす。これを聞くのはとても卑怯な気がしたからだ、分かっていて聞こうとしていた。最低だ、わたし。

居心地が悪くなったわたしはゆっくりと顔を俯かせた。チェレンの気持ちを知っていながら答えようとしないわたしは最低なのだ、喉まで出掛けた言葉を吐き出すことは簡単なはずなのに、吐き出すことがどうしても出来ない。勝手だ、優柔不断だ。ごめんね、という言葉すらも言えない。

「僕は待ってるよ、」

「……」

頭に置かれた手は大きくて暖かい。―――気持ちがないのなら、この手も拒まなければならないはずなのに自分に甘いわたしは拒むことはおろか心地良さまで感じてしまっていた。馬鹿だ、わたし。チェレンを苦しめているだけだと知っているのに、どうしてわたしは


「チェレン、どうして?」


わたしなんて、最低な人間を選んだの?口に出来なかった言葉をまるで聞いていたかのようにチェレンは迷うことなく"名前だからだよ"と口を開いた。俯いてチェレンの表情は分からないが声はとても寂しそうで、とても聴いてられなかった。




彼が帰ってこないからなんて言い訳をして、チェレンの優しさに縋るわたしは彼の傍もチェレンの傍にもいる資格なんてないのだ。

嗚呼、いっそ悲しみで彼を忘れられたら良かったのかもしれない。



トワイライト


end (20121116)




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