放たれた言葉は、今



それ以上言うな。そう私の言葉を止めた其れは余りにも辛そうに呟かれたのだった。ぐっと必死に怺えてみせて、己の拳に力を込めた。――痛くて悲しい、…今すぐにでも本当は問い詰めたくて、何故なんだと聞きたくて仕方なかったなのに、聞けなかった。それが全ての結果であって真実で、伏せられた彼の瞳が全てを物語っている。今の彼に話せることなど何もなく、次第に沈黙が私たちを包み込んでしまう、静寂とした世界は只、暗く灯りなどないが空には輝きを放つ星や月。久しぶりにこうやって落ち着いてみたな、と頭の中でぼんやりと思えば彼は伏せていた瞳を私と同じく空高くに向けて、一言綺麗だな…と口にする。それにそうですね、としか返せなかった私は彼をちらりと横目で見る。輝く星や月を寂しそうに見上げる彼はまるで絵になるんじゃないかとさえ思う。綺麗、だなんて不意にも思わされたのだった。…どうした?自分でも知らない間に長く見つめすぎていたんだろうか、彼の瞳は空から私に移されその表情は不思議そうにしている。それにさて、なんと言おうかと早速脳内で考える。まさか見惚れていました、だなんてそんなことはとても言えなくて苦笑を浮かべる。何でも、ないです…放たれた言葉、考えてもやはり何も思い付かなくて仕方なく何でもないと口にするものの彼は分かっているんだろう。だが、深く立ち入ろうとはせずに只一言そうか、とまた空へと瞳を向ける。「…イタチ、さん」 「…どうした、名前?」戸惑いの気持ちを押さえ込めて彼を呼べば私の表情に気付いたんだろう今度は彼が苦笑浮かべた。「…名前、俺は」その先に告げられた言葉は私も薄々感づいていたから、辛くは………。良いんです、私の言葉に彼の表情は酷く悲しげに変わる。そんな表情させたくないのに、笑って欲しいのに。笑って下さいなんて言ってもやはり彼は苦笑しか浮かべなかった。「俺はいつかお前を置いてゆくことになるんだ」分かってる、分かってますよ。痛いほどそれが悲しいことも、分かっていながらもどうすることも出来ないことも私は分かっているんだ。「…俺は、お前にこれ以上辛い思いをして欲しくない」泣きそうなくらい彼は表情を歪ませてぽつりとまるで呟くかのように口にしては私の肩に顔を埋めた。お願いだ…なんて彼らしくない震えた声が耳元で響く。「イタチさん、」 「……」 「好きです」 「……名前」 「辛い思い、してまでも貴方が好きです」埋めた顔を上げた彼にぎゅうっと抱き付けばふわりと匂う彼の香り、辛い思いをしてまでもやはり私は貴方を思うのだ。彼が言うように彼は私を置いてゆくだろう、それの後を追おうなんて馬鹿なことは出来ないよ。きっと悲しくて溜まらなくて、仕方ないだろうけれども彼を想う気持ちはちゃんと留めておける。彼を忘れないで、おけるのだ。それならば私はこの運命も大人しく受け入れる気がした。


放たれた言葉は、今

end (20120901)

スランプ…………いや、元からか。




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