影は見えない




彼女は笑っていた。謝らなければならない僕よりも先に君は僕に「ごめん、」と一言その弱々しいか細い声で言った。血に濡れた僕の腕や服に僕はまるで自分が彼女を刺したかのような錯覚に襲われる。

「……名前、」

名前を呼ぶものの返事はなくぴくりとも動かない彼女の冷たい頬に僕は手を添える。偶然なのか、空からは大粒の雨が僕と彼女を濡らしてゆく。

「…僕な、知ってたんや。名前が僕の事好きなこと」



そう、君の行動は誰が見てもわかるものだった。僕が君の近くを通れば顔を赤く染め君は僕を見る。僕が君に話し掛ければまるで林檎のように真っ赤に顔を染めて慌てたような口調。そんな君の行動に僕は気付いていた。君が僕に好意があったこともずっとずっと前から。


「…それを僕は利用したんや」


彼女の僕への好意は利用しやすかった。僕の言うことは人を殺す事も成し遂げた君、そして反逆者となった君。僕は易々と彼女の気持ちを利用した。



「…ご免な、名前」

謝っても許される事ではないことくらい僕でもわかっている。初めから使い捨てだった彼女、後ろめたい気持ちなんて僕にはさらさら無くて。

けれど、いざ彼女が前で斬られれば自分らしくないくらい僕は焦った。そして、後悔した。どうして、彼女を連れてきてしまったんだろう、と。あの日僕は全てを捨てたつもりだった。つもり、だったのだ、……結局僕は捨て切れてはいなかった。



「名前、お願いやから…」

勢いを増す雨の中僕はすっかり冷たくなった彼女を抱き上げて抱き締める。少しでも君の温もりが残っていないかと。



「…名前、名前っ」

今更この気持ちに気付かなければ良かったと感じる。君が愛しいと言うこの気持ちは君が居なくなっても僕の気持ちを締め付けて離さない。

いっそ、こんな気持ちが続くのなら死んでしまえたら。と脳内に考えが浮かぶ。

「今更、気付くなんか…あほみたいやな僕は」


君がただ愛しくて愛しくて仕方なくて君の温もりを感じたいと願い君の笑う顔が見てみたいと思う。君をもっともっと知りたいと僕の心が叫ぶ。



嗚呼、僕は―――――――












「――名前を愛してるんや」


もしも願いが叶うのならもう一度君と二人で。


影は見えない

end




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