耳に残ったその声は
「……はぁはぁ」
「自分、息上がってるで」
ガキン、と虚しく鳴り響いていた刀が混じり合う音はぱたりと止まり変わりに私の息をする音が大きくなる。頬から流れるのがわかる液体を手の甲で拭き取り妖しく笑う元私の尊敬していた男に刀を向ける。
「……もう止めとき。自分でもわかってるんやろ?なァ、名前ちゃん」
「…例え私が死ぬとしても私はこの刀を引くつもりは御座いません。」
「……さよか」
「ええ、そうです。」そう口にして私はぎゅっと刀を握る力を強める。自分が元隊長にかなうはずもない事は百も承知だった。増してやあの市丸隊長だ。私なんて足元にも及ばない人だ、なのに私が戦う理由。それは
「……私が知っていた市丸隊長じゃない。…何故、何故藍染隊長と共に手など組んだのですか…!」
「…君には関係ない事や」
「なら、どうしてそのようなお顔をするのですか?」
納得いかなかった、市丸隊長が藍染隊長と手を組み私達死神を裏切っただなんて信じたくもなかった。けれどそれよりも納得いかなかったものは何故そのような顔をするのか、何時もと変わらぬように見えて悲しそうに私は見える。
「…このまましてたらいつか君を殺してしまうで」
「…良いです、それが私の本望でもあるのですから」
「……馬鹿な子やな」
カチャリ、と市丸隊長が刀を構える。それに合わせ私も刀を構え流れる液体をまた拭き取る。
「射殺せ、神創」
「……っ!!」
避けきれない刀は容赦なく私の腹を射抜く。がはっ、と口に鉄の味が広がり意識が朦朧とする中ぎゅっ、と腹を射抜く刀を両手で握りしめる。
ぽたりぽたり、と血の海を作る私の足元、滑りそうになるがそれでも握りしめる。
「諦めや、名前ちゃん」
「…い、ちまるたいちょ…」
「 」
ぐらり、歪んだ世界。目の前には敬愛していた憧れの人、まともに見えなくてけれどはっきり聞こえた言葉にゆっくりと私は瞼を落とした。
耳に残ったその声は
(酷く、愛しくて)
(哀しかった。)
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