無知は罪だと




「……う、そ。」

場に似合わない掠れた己の声がぽつりと一つ辺りに響き渡った。だが直ぐにしまった、と気付いた時にはもう全てが遅くて私の命すらも掛かったそれはいとも簡単に破られてしまう。ビリリ…ッと激しく破られた鬼道、目の前には私が声を発してしまった原因である隊長二人が見えた。


「…あらら、名前やんか」

「…っ、!」

それに私は慌てて二人から距離を置き、万が一の為にと己の斬魄刀に手を掛けて相手の様子を伺うが、二人に焦る身振りなど一ミリたりとも見当たらなく逆に余裕綽々と口を開いた市丸隊長。

その言葉に私は何も返せず無言を貫けば、私の考えを見透かしたかのように笑みを浮かべた。その姿に私は息を呑み込む、もしかしたら…否、きっと隊長達は自分に気付いていたんだろう。だから、こんなに冷静でいられるんだ。そんな考えを自己満足に纏めて自身を落ち着かせようと試みるものの不安はやはり消えはしなくて。


「…すんません、きっと僕が付けられてたんですわ」

しん、とした沈黙は直ぐに市丸隊長の言葉によって阻まれる。確かに、私は市丸隊長を付けてきてたまたまこの話を耳にしてしまったのだ。聞かなければ、隊長を付けなければ良かったと後悔しても全てが遅い。大人しく帰してくれないことは馬鹿な私でも充分に分かっている。



「ほんなら、僕がちゃんと後片付けします」


カチャリ、と市丸隊長の言葉と共に鳴る斬魄刀が全てを語る。冷や汗が背中を流れるのが分かるが今は気を使っているような暇はとてもなくて、仄かに震える腕で己の斬魄刀を握り締めた。


――が、それは全て一瞬だった。何時の間にか姿を消した藍染隊長、あんな話聞いていて追わないなんて選択を私に出来るはずがないというのに身体はその思いとは裏腹に言うことを聞いてはくれなかった。ぐさり、と酷い音と胸の辺りに刺さる刀、刀の先を目にすれば案の定、市丸隊長で。不意にじくりと胸が痛んだ。















「…はっ…っ…」

自力では既に立てなくなった身体は地へと落ちて荒くなる呼吸、上手く酸素が吸えなくて目の前が歪む。


「…鎖結と魄睡を潰した、」

「…な、ぜ……?」

「…君自身は死なん、」

けど、と言葉を繋げた市丸隊長の顔は何故かとても悲しげで。途絶える意識の中で届かないと分かっていながらも手を伸ばした。














「…死神としての君は死ぬ」


無知は罪だと誰かが言った。


(20120812)

遊佐さん誕生日おめでとう御座います!




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