キスだけなら何度でも




例えば、もし私が彼に出逢わなければ私と彼の世界はどのように回り続けたのだろう。私を知らない彼、彼を知らない私は幸せなんだろうか?

なんて、今更考えても意味の無いようなことを私は考えた。出逢わなければなんて、きっとそんな選択は最初から有りはしなかったのだ。


ゆっくり、と息を肺に一杯に吸い込めば有り余る酸素が私の身体を循環する。嗚呼、生きてるんだと実感が私を埋め尽くした。

「……」

だが、それと共に身体は自分に課せられたことを酷く拒絶したのだ。震える身体からは数え切れないほどの不安と恐怖が溢れ出す。あれだけ時間を掛けて決意したことも脆く簡単に崩れ落ちてしまうほどに、


「…っ…どうして…」

自分の意志に逆らうかのように震えが止まらない身体を抑えつけながら口を開く。情けなくて、仕方なかった。


沢山の、刀を交えた音が私の耳を掠める。みんなが戦っているのだ、大切なものを守るために。または、大切なものを取り戻すために。


――――なのに、私は一体此処で何をしているんだ。私だって大切なものをこの手で取り戻そうと誓った筈なのに。そう、誓ったはずなのだ


「……情けない、」

これだけ自分に言い聞かせていると言うのにまだ身体は震えを止めようとしない。どうして、だなんてもう分かりきっている。

一層、此処で腹でも突き刺して死んでしまおうか?そんな考えが頭の中を過ぎった瞬間だった。



「――――っ」

明らか自分に向けられた刃は物凄い速さで私の心臓を狙った。だが、自分自身でも驚く速さで私はその刃を己の刀で受け止めた。

ガキィン、と耳が痛くなるような音が辺りに響き渡る。


「さすが、やね」

「………ギ、ン」

ふわり、と宙から軽い身のこなしで降りてきたギン。その途端、ぶわっと溢れ出した涙はもう止めることなんて出来なかった。

「…君のことやから、また変なことでも考えてたんやろ?」

「………」

ギンは手に持つ斬魄刀を直しながら、うっすらと苦笑いを浮かべた。ああ、もう彼には何もかも見透かされてしまっているんだ。


そう思った途端私は斬魄刀を投げ捨てて、無我夢中でギンの胸へと抱き付いた、何も言わず受け止めてくれるギンの優しさ。嬉しくて、悲しくて、苦しくて、沢山の気持ちが私の心の中を渦巻く。

「…ごめん、ごめんね…」

彼だってきっと、決意しただろう。こんな運命でも受け止めただろう。なのに、なのに私は情けない。いくら謝ろうとも足りたいのだ。


「…ええよ、僕も限界や」

へらり、と笑う彼は痛々しくて堪らない…私はそんな彼に背伸びするようにして口づけた。今は、今だけは良いじゃないかなんて己に甘さを植え付けて。これが最後だなんて、彼も私も分かっているんだ。

キスだけなら何度でも


end

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