狂った物語の末路





「…あの、どういう意味なんですか?」

ひくひくと引きつる顔で目の前に立つ隊長に問えば私の今のこの気持ちが伝わったのか、大きなため息を一つ吐き出してゆっくりと口を開いた。

「…しゃあから、こいつが此処慣れるまで傍に置かしてやってくれへんか?」

「……」

あの隊長が申し訳なさそうに口にした言葉に吃驚しながら、その隊長が"傍に置かしてやってくれ"と言われた人物を目に写す。

綺麗な銀色の髪の自分より幼い子供に内心とても吃驚してしまう。失礼だが何かの間違いなんかじゃないかなんて疑いを向けてしまいそうになるが、あの何を考えているのか判らない笑みはとても子供のようには見えなかった。


「隊長、あの……」

「ああ、こいつ三席やから」

「え、三席…ですか?」

叫びそうになるのを何とか抑える。と言うかこんな小さな子が三席なのだろうか?自分は四席だが努力をして漸く此処まで登りつめてきた。そんな自分の上司はこの子?

「…あ、あの…藍染副隊長は…」

藍染副隊長は私が三席を傍に置くことに納得したのか?まさか隊長だけで決めてしまったんじゃないんだろうかなんて考えを巡らせながら口を開けば隊長は途端、渋い表情を浮かべる。


「…隊長?」

「…実はこれ、惣右介が言うたことなんや」

「…藍染、副隊長が…」

予想外の言葉に思わず言葉に詰まる。藍染副隊長は今まで他の隊員にこんなこと提案などしなかった、このような仕事は藍染副隊長が全般的に受け持っていたからだ。なのに、どうして突然……

「まあ、少しの間やから」

「…はい、分かりました」


"少しの間だけなら"と引き受けた私に隊長は安心したように笑みを浮かべた。そうだ、少しだけなら…

「今日からよろしゅうな、名前ちゃん」


へらり、と笑う市丸三席に何だか心が見透かされているようで苦笑いを浮かべた。どうにもやりにくい、下手したら自分が子供のような、そんな感じ。実力としては向こうの方が上なんだけれど。


一応引き受けたことは仕方ないので市丸三席を連れ五番隊内を軽く説明するために歩きだす。今は皆勤務中のためトントンと二つリズムの良い足音が廊下に響いた。

そう言えば市丸三席はどのようにして三席と言う座を手に入れたんだろうか?他の隊からの移動では無さそうだし、一体どうやって――



「名前ちゃん、」

「あ、はい…どうされました?」

考え事に耽っていたらしく市丸三席の言葉が聴こえなかった。慌てて振り返れば、面白くなさそうな表情の市丸三席が居てその表情はやはり子供で可愛らしい。

「何の、考え事してはんの?」

「あ、いや、別に…」

「僕に言われへんこと?」

機嫌が良くなくなって行く市丸三席に内心焦りが生じる。そりゃあ、まあ…どうやって三席の座に着けたのかなんて言いにくいことだ。苦笑いを浮かべるだけの私が気に食わないのか、むっとした表情をした。がそれも一瞬で途端あの笑みを浮かべだした。

「…市丸、三席?」

「僕が何でこの護廷十三隊に入って間もないのに、三席の座に着けたかわかる?」

「……え、?」

それは今、私の中にある一番の疑問と言っても良いほどのものである。もしかしたら、この人は本当に私の心を見透かしているのか?余りにも図星だった為か焦りから声が出ない私に市丸三席はクスクスと妖しく笑ってから、何故かちょいちょいと私に向かって手招きをした。


「…え、あの…」

「ええよ、特別に名前ちゃんには教えてあげるわ」

こっち来て?と手招きを繰り返す市丸三席に何の警戒もせず、近付いた私はよっぽどの馬鹿だ。知りたくて仕方なくて冷静な判断が出来なかった。


…あんな、と近付いた私の耳元で内緒話をするかのように話し出した市丸三席、気になって仕方なくて堪らない私はその先が早く聞きたくて身体がうずうずしていた、その時だった。



「―――っ、」

何か強い力に身体を勢い良く押され、突然のことに体制など立ち直せられず冷たい床へと身体をぶつける。背中に衝撃が走り軽く息が止まる、慌てて立ち上がろうにも背中の衝撃が走った直ぐあとに腹部辺りに重みが増した。

う、っと小さな呻き声を発しながらもその目の前にある原因とも言えるものを目にする。にやり、と妖しく笑った市丸三席は既に私の両手を一つに纏め抑え付け動けないようにしていた。


「…市丸、三席?何を」

「何を?わかってるやろ、」

へらり、と得意気に笑う市丸三席を目にし私の背中には悪寒が走り去った。逃げようにも抜け出せないこの状況に自然と涙ぐむ私とそれを見て嘲笑う市丸三席。一体何時から時は狂いだしたのか?私にはわからない。


狂った物語の末路

(20120503)

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