鉄鎖の重さに嗤えた
吐き気がして堪らなかった。胃にあるものが全て出てしまい、胃液しか出ないようなそんな感じが数時間も続いている、私はゆっくりと視線を伏せた。
どくん、どくんと心臓が高鳴る。とても良いものなんかじゃなくそれはもう恐怖のみで、ただ私はひたすら願い続けたのだ。
「名前ちゃん、ちょっとええ?」
「―――っ、は、い」
たが、その願いの綱さえもあっさりと断ち切られた。聴きたくもない声が私を呼ぶ。どうして私なのだろうか、他にも沢山居るはずなのにどうして、なんて考えながら返事を返し席を立つ。
がたがた、と一向に震えが止まらない身体に鞭を打ち歩き出す。目の前には嫌に笑みを浮かべる市丸隊長が立っていた。出来るのなら今にも逃げ出したいがそれが叶わないのは私も変わりきっていることであって、
「あ、名前ちゃん…」
「…な、んですか…」
市丸隊長に付いていけば、知らず内に人通りの少ない場所になっていた。途端、足を止めた市丸隊長はゆっくりと此方を向いた。それに私は反射的にびくりと肩が揺れ、それが面白いのかクスクスと笑い出す市丸隊長。
だが、それは一瞬であって凄い勢いで壁に追い込まれてしまう。それに悲鳴を上げそうになる私だが即座に口を抑えられ失敗に終わってしまった。
「あかんよ、声出したら」
「……っ」
妖しく笑って、そっと私の首筋へと顔を埋める。喋るごとに息が首筋へ掛かりびくりとまるで電気が身体に流れたようになってしまう私の身体はもう自身の意思ではどうにも出来なくて。
このまま、殴られたりするんだろうか?そんな考えが私の頭を過ぎったその瞬間、
「――――っ、!」
首筋から"ガリッ"と痛々しい音が鳴り響き、その首筋から激痛が走る。慌てて首筋を抑えるものの、そこからは生暖かいものが溢れ流れており、息を呑んだ。
「…噛ん、だんですか」
「…ええやん、君は僕のなんやから僕がどうしようと僕の勝手やろ?」
"なあ?そやろ?"と笑みを浮かべる市丸隊長はゆっくりと此方へと歩を進める。逃げようにも身体は思うように動きはしなかった、震える身体を抱き締めて視線を伏せる。
「…あれ、どないしたん?」
「…も、う、やめてっ…!」
ぎゅっと身体をこれでもかと言うほど抱き締める。嗚呼、もう一層死んでしまいたい。なんて死ぬことも出来ない私はそんなことを考えて。途端、伏せていた顔をぎゅっと持ち上げられ必然的に上を向かされる、
「嫌、や」
「…………な、」
満面の笑みで市丸隊長はいとも簡単に私を絶望へと堕としてしまう。"逃げられない"とその瞬間に私は思ってしまった。まるで、重い鎖が身体中に繋がっているようで。嗚呼、もう初めから逃げることなんて出来やしなかったんだ。ぽたりぽたり、と溢れ出した涙は地に流れ落ちていた。
鉄鎖の重さに嗤えた
end (20120310)
市丸さんに熱が上昇中でして。鬼畜な市丸さん好きですが上手く文に纏められないのが悔しいですね。
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