嘆くことすら罪ならば






途方もないものなのだとわかっていた、仕方のないことだと割り切った筈だった。



呑気に私はゆっくりと空を見上げた。造られた空だとわかっていてもその空は澄み切った青空だ、本物と何も変わらない。………もしかしたら本物よりも綺麗なのかもしれない



「……、」

「…久しぶりやね、名前」

ふわり、と音もたてずに現れた人物にゆっくりと目をやる、それは嫌なくらいに真っ白な服は私が身に纏っている真っ黒な服とは対照的だ。

聴きたかった声が聴こえた、だが私は決して表情を変えない。否、変えてはならないのだ。


「………」

「そうやって昔も今も無言で通す気なん?…名前は」

「………」

「…自分が無言やったら感情も溢れ出えへん思てはんの?」

「……、!」

彼の一言が胸を貫き肩が揺れる。そうだ、私は無言なら感情も溢れでないと信じている。だが彼はそれを口にした。

「…名前、昔も今も何も変わらんね」

「……私を知ってるみたいな言い方は止めて」

重く閉ざしたはずの口が開く。彼は私の全てを知っているかのように口を開いたが彼は知らない、私の想いもあの日の出来事すらも。


















―――――知らないんだ。


「私はあの日…ギン、あなたが居なくなってからどれだけ苦しんだか。あなたは知らない」

「……そやね、」

「私は息を潜めてあなたを想うしかなかった……!」

「………」

「…そして、今も…」

かたかた、と構えていた刀が震える。抑えようとも抑えきれない恐怖に私は唇を噛む。目の前の彼へと目を向けるが彼はやはり刀も殺気すらも向けてはこない。

「…あなたを殺さなくてはならないのに…!私は…私は…あなたを…」


震える手にしっかりと握るように両手で刀を構えるがやはり彼を見ると必死でした覚悟さえもが薄れ消えてゆく。嗚呼、私は彼を―――――
















――斬るなんてこと出来ない




「………隊長!」
「………、」

私の隊である副官の声がやけに耳に響く。そうだ、私は彼を斬らなければならない。




だが、私は彼を斬れはしない。けれど私は自身の立場では許されないこと。………………なら私がすることは、








「…隊長…?……隊長!!」

「……名前、!」



自分が置かれた立場は決して彼を想うことを許されない立場だった。私は彼を想うことを諦めることも彼をこの手で殺めると言う覚悟もしたつもりだけで結局自分は出来なかった。……その場に立てば足に重たい岩を付けたかのように動かなくなる。それがその証だ、私は自分の気持ち故に彼を想うことを諦めることさえもこの手で彼を殺めることさえも出来ないという証。だが、周りはそれを許すはずがない、だったら息を潜めていようと誓った。だが今となってそれすらも無理に等しい。彼の姿を目に写せば彼の声が耳に入れば嫌でも身体も心さえも彼を求めてしまう。叶うはずもないことばかり期待することばかり、私はいつからこんなにも狂ってしまったのか、自分自身に苦笑した。









嗚呼、彼を想うことも嘆くことさえも罪ならば私は喜んで息を止めましょう。






そうして私は己の首もとに刃を突き立てた。



嘆くことすら罪ならば

end




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