足元は水浸し




バタン、と勢い良く身体が横に倒れた。今の自分は受け身すらもとれなく呆気なく地へと身体を打ちつけた。

倒れた身体から溢れんばかりの赤い血液が溢れ出し私の黒い服を濡らしてゆく。(……嗚呼、私は死ぬのか)


ゆっくり、と視線を上に向けると憎たらしい程青い空と私が愛した男の顔が見えた。私は奴に刺されたのか、と理解するのにそう時間は掛からなかった。

「……ごほ、っ」

吐き出されたものはやはり赤い血液だった。吐き出されたのに口の中から消えない鉄の味に口元から流れているであろう血液、

「………」
「………っ、がは、!」

そんな私に気づいても尚奴は傷を治すわけでもなく私の首もとを鷲掴みいとも簡単に私の身体を持ち上げるが首もとはきつく締め付けられ上手く息が出来ない、

「………、っうあ゙…」
「…あーあ、」

持ち上げられた身体は簡単に放り投げられ壁に頭が激突し声にならない痛みが私を襲い意識が朦朧とし出した。

「…っ、は…あ゙っ…」

吐き出された血液が私の手の甲へと落ち地に流れ落ちた。虚ろとする視界に奴が入ってくる、綺麗で妖しく光る銀色の髪にまるで汚れが目立つようにしているかのような白い服、今の私は奴が怖かった。

「……っ、」
「…僕のこと怖いやろ?」

図星に身体が小さく反応すると声を抑えながら笑われすっとまるで氷のように冷たい手を頬に当てられる。一瞬にして自分の体温が低くなるのを感じた、

「……っ、…」
「…その怯えた目、僕結構好きやで?名前」

頬に当てられた手はするすると目に移動し私は身体の震えが止まらずぎゅ、と目を閉じる。何も見えないが目に当てられた奴の手の感触は嫌でもわかる。

すると目に当てられていた手はゆっくり落ちてゆき唇へと当てられる。ゆっくり、ゆっくりと閉じていた目を開いた。


「…怖いんやろ?」

「……ギ…ン、」

目の前に見える顔は楽しそうに笑みを浮かべた。怖い、何故か凄く怖かった。逃げ出したい衝動に駆られた私は意を決し奴を押し立ち上がって足を進めようとした、


「僕から逃げれる思たん?」


「――――っ、!」






だが、案外早くも後ろから抱き締めるように奴は私を掴んだ。腰に回された腕は私の力なんかでは剥がれない、もう片手は私の顎を掴んでいた。


「っ、や…めっ…!」
「…暴れなや、死ぬよ」

"死"と言う言葉に私はゆっくりと抵抗を止める。所詮私は死にたくないだけなのだ、ガタガタと震える身体はゆっくりと正面に向かされる。見えた奴の表情はやはり楽しそうに笑みを描いていた。

「……離し、て」

震えた声に情けなくなる。必死に振り絞った声なのに、奴はまるで聞こえなかったように腰に回された腕の力が強くなっただけで。

「……ご免な、」
「―――――ッ!?」

突然の謝罪と共に降りかかってきた奴の口が私の口と重なり押し当てられる。押し当てられた口から強引に舌をねじ込まれ入って来た途端口内に何かが入る。

それが何なのかはわからないが飲んでは駄目だと必死に外に出そうと試みるが奴はそれを舌で奥へ奥へと入れてゆきするり、と私の体内へと入り込んだのを確認すると漸く押し当てられた口は離れお互いの間に銀色の糸が繋がるのが見えた。


「……っ、な…にを…?」
「……」

私の体内に入ったものは何なのかと問い詰めるものの奴は口を開かない。だが、それから数分もしない間に身体が異変を知らせた。

「……、っな…」

ぐらり、と歪む視界に先ほどまではっきりしていた意識が朦朧とする。そして、ゆっくりゆっくりと私の中の記憶が消えてゆく。


「…名前が次、目覚ました時は僕と同じ藍染隊長に付く優秀な部下や」

「――――――な、」

「次目覚ますその時まで、今の記憶にさよなら言うんやで?」

にやり、と笑みを浮かべた奴がゆっくりと私の目を手のひらで覆い合図かのように私の意識はぷつり、と切れた。

足元は水浸し

end

(20110924)




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