君の為なんて、本当は口実




彼女は瞳から溢れ出た涙をぽつりぽつり、と頬をつたい地面を濡らす。止めてくれ、と心の中で僕は叫ぶ。

「……連れてって、」

必死に振り絞った彼女の声は震えていた。僕も連れて行きたいと思うがやっぱりそれは何が何でも出来ひんよ、

「…あかん、名前は居り」
「どうして…?お願い!」

「………あかんのや、」

どうして、どうして、と泣きながらすがりついてくる彼女を僕は意を決して振り払った。バチン、と痛々しい音が鳴り響く。

「……ギ、ン」
「名前は死にたいん?」
「え、」

「僕の足手まといになって死にたいの?」

彼女が息呑んだのを僕は見逃さなかった。自分でもあまりの声の冷たさに吃驚するが彼女の為なのだと自分の中で言い続ける。そしてゆっくりと彼女の首筋へと刀の刃を当てる。

「………なら、」
「…っ、」



「………今、死ぬ?」


本当はこんな事したい訳やないのに。彼女に刀を向けるなんて事やりたない言うのに。何故、僕は今平然と彼女に刀を向けれた?


「……ギンになら、」
「……、」



「ギンになら、殺されても良いかもしれない」


流していた涙をこらえながら彼女は沢山の涙を目に溜めてうっすらと笑って僕を見た。そして首筋に当てていた僕の刃をゆっくりと押しつけ僕でもわかる彼女の綺麗な肌を傷付けた感触、

「―――っ、」
「……ギン…」


「……アホ、ちゃうの」

慌てて引いた刀にはうっすらだが彼女の血液が付いていた。首筋からは綺麗に一筋、血が流れている。それを横目に僕は必死に表情を壊さないように、と彼女に背を向けた。

「私ね、ギンが駄目って言うのわかってた。」
「……、」


「ごめん、ギン…私ギンを忘れられないよ」

ごめんね、と小さく口にした彼女はゆっくりと後ろから僕に抱き付いてきた。離したくない、一緒に居たい、もっともっと名前と一緒に…。

「…幸せになりや、」
「………ギンなんて嫌い、」

嫌い嫌い嫌い、と僕の言葉も聞かずに名前は僕に強く抱き付く。それが嘘だとわかっていながら僕はゆっくりと歩き出した。名前は追ってこない。代わりに名前の泣き声が僕の耳を掠めた。








本当は、彼女のためと良いながら僕は彼女を振り払った。けれどそれはただの口実で僕がただ単に彼女を守りきれると言う自信が無かっただけなのかもしれない。

愛している彼女を傷付けないように僕は守って行ける自信が無く彼女の気も知らず僕は彼女の言葉が声が行動が嘘だとわかっていたはずなのに、僕は彼女を置いてきてしまったのだ。


君の為だなんて、本当は口実

end

(20110914)




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