自分の運命が残酷であり苦痛であり大切なものさえも失ってしまうと言う絶望感に飲まれ自分の力が大切なものを傷付け拒絶され、心身共々ボロボロになり死さえ紙一枚の薄さの前で自分はきっと怖くて立ち上がる事が出来ない。

逃げ出したい、もう全てを捨てて忘れて消えてしまいたい、なのに自分は死を覚悟してまで何故守り抜くのか?


残酷苦痛の運命はゆっくり、そうゆっくりと確実に近付いていた。






運命は残なり





「それぐらいにしとけよ、」

「…ん?あ、ああ」


わかってる、そう口にしながらも四人組の男達に殴る蹴るを繰り返すこの男、黒崎一護。名前は凄く可愛らしい名前だが騙されてはいけない。昔から短期で口悪くて仕方ない奴だけれど……仲間思いで隠された優しさと強さを持っている。昔から、そう昔から何も変わらない。


「あ…あの、」

「ん?…ああ、大丈夫だよ。」


よしよし、と女の子の頭を撫でると安心したかのように笑顔になる。その横には供えられていた花が横たわっている。原因はそう、あいつ等だ。


「てめぇ等にも花を供えなきゃなんねーようにしてやるぜ!」

「おい、それ危ないだろ」


怒りを露わにし過ぎの一護に男達は悲鳴に近いような声を上げながら一目散に逃げ去る。

正直、かなり怖いだろう、元からこんな顔なんだ。横目で一護を見ると女の子に話し掛けている、多分また花を供える話のようだが。ちらりと後ろを振り向くとにこりと笑ってお礼を述べた。



「どういたしまして、」

「…早めに成仏しろよ」


わしゃわしゃ、と女の子の頭を撫で歩き出す。彼女は人間ではない、よく言う幽霊というやつだ。物心ついた時から何かしら一護と俺は幽霊と話せるし触る事すら可能らしい。


「今日の夕飯なんだろうなー」

「また、シチューとか言い出すなよな」

「えーシチュー美味いだろ?」

「それでも一週間全てシチューはいらんわ!」


端から聞こえる通り俺の家は黒崎家だ。小さい頃からお世話になっていた俺は丁度中学生の頃に両親を亡くした。そして現在黒崎家でお世話になっている訳で同じ帰り道に同じ学校と一護とは何かしら一緒に居たりする。まあ、家族のようなもの









* * * *


「「ただいまー、」」


「遅ーいっ!!」

「……っ!!?」

がちゃん、と扉を開けた途端見えたのは一心さんが一護に向かって蹴りを加えた所。いつもながら一心さんの蹴りは凄まじい。

「この不良息子!うちの夕食は毎晩7時だと決まっとるだろうが!それに加え悠輝ちゃんまで連れてー!」

「…ちょっ、!一心さ、」

「てめぇ、これが必死扱いて除霊して帰ってきた息子に対する挨拶か!」


ぐだぐだと長くなる話に遂には殴る蹴ると言う毎回行われるものが始まる。こうなれば止める術は皆無だ。


「もー、止めなよ二人共ご飯冷めちゃうよ!」

「ほっときな遊子、おかわり」

「でも、夏梨ちゃん」


はあ、とため息を漏らすと夏梨は俺を哀れむような目で見た。毎回の事だが妙に悲しくなる。ちらりと一護の方を見るとこれまた新しいのが憑いていたり、する

「大体な!健全な男子高校生を毎日7時に帰宅させようってのがそもそも…!」

「一兄、もう新しい人憑いてる」

夏梨の一言でやっと気づいたのか振り払おうとしても払えず苛々する一護。

「……因みに、悠輝姉も憑いてるよ」

「……は?」

ちらり、と自分の真後ろへと目を向けると明らか女の人が憑いている。どうしてこうも寄ってくるのか謎で仕方ない。

「…って、まだいるのかよ!」

「ご馳走さん、大変だね一兄も悠輝姉も。ハイスペックで」


哀れみを向けられながらも二体をどう除霊するべきか考える。正直、最近除霊ばかりしてるような気がする。

「…もういい、寝る」

「あ、お兄ちゃん…!」

リビングから出で行く一護を遊子が止めるが効果無し。そりゃあ最近霊が憑くのが多くなってるから大変だ。挙げ句帰れば一心さんの体当たりコミュニケーションが待っているんだ、自分なら家出だ家出

「…あーあ、お父さんのせいだから」

「何でだよ…!?」

未だに理由がわからない一心さん。そりゃあ霊を見る事も話す事触れる事も気配すらもわからなければ一護の除霊の疲れは分からないだろう。

「お兄ちゃん最近大変なんだからねー!」

「そういや最近前より沢山見えるようになったとか…悠輝姉もだったよね?」

「ああ、かなり沢山見える」

確かに夏梨の言う通り見るのはちらほら見えていたが無駄に多く見るようになったし何かしら取り憑かれるのも多くなった。

「何…?!あいつお前たちにはそんな事まで話すのか?しかも悠輝ちゃんまで…!父さんには…」

「当たり前だろ、四十過ぎてこんな幼稚なコミュニケーション手段しか持たん父親になんて誰が…」

「悪いけど、同感です」

夏梨の言う事に大いに賛成だ。口にするとショックが隠せない一心さんは一護の母の遺影に抱き付く。正直見てられないな


「まずそのアホみたいな遺影をどうにかしろ」

「……同感、」

取りあえず一護の家庭には個性豊かな方々が揃っているようで日々楽しげ……なのかわからない生活を送るが正直かなり満足過ぎたりもする。



end