ピピピ、と独特な音に薄らと目を開けば白い見慣れた天井が見えた。暫くぼーっとしていたが不意にカレンダーに目をやる、…嗚呼、確か今日は――
「……やっぱり、な」
何も書かれていない殺風景なカレンダーに今日の日にちが写し出される。その日にちの横に目をやれば身体はやはりうまく動いてはくれなかった。
懺悔するには遅すぎた
「いででででででェ!!!やめてやめて!!綿が出る!!綿が!!」
静かな部屋とは打って変わり横からはやかましい声が響いている。きっとコンが何かしたのだろう、コンとはあの一護の身体に入り大騒ぎになった改造魂魄。丸薬になったあいつに取りあえず入れる身体を探していたが見つからず試しにと道端に捨てられたぬいぐるみに入れてみるとあら不思議。
ぬいぐるみ姿で喋るようになってしまった。
「………」
コン、と言う名前は一護が決めたので自分も呼ばせてもらっているがどうやら本人は気に入ってはない……みたい?
隣に響くコンの叫び声を聞きながらぼーっとしていると誰が階段を登る音がした。きっと遊子だろう、
ふ、と時間に目をやると時間が迫っているからゆっくりとうまく動いてはくれない身体に鞭を打ち用意し出した――
* * * *
「………」
身体が動かないのは学校に着いてからも変わらなかった。ただただぼーっと空を見つめるしか何故か出来ない。きゃっきゃと騒ぐ教室に自分のため息は消えていった。
最近はいろんな事があって気付かなかった、何しているんだろう自分は。ぼーっと顔を伏せ現実を見たくはなくてゆっくり、ゆっくりと目を閉じた。
「……悠輝、!」
「―――!」
聞き覚えのある声にびくり、と肩を揺らす。今一番聞きたくない声の主で俺は顔すらも上げなかった。いや、上げたくなくて。
「…おい、って!」
「……ちょ、」
なかなか顔を上げない俺に一護は無理矢理俺の腕を引っ張る、必然的に顔が上がれば教室には既に誰もいなかった。
「……は、」
「…お前、ぼーっとしてっから授業終わったのも気付かなかったのか、帰るぞ」
いつの間にか空は綺麗な夕暮れだった。自分はずっとあのままだったんだろうか、全くわからなかったと後悔する。
「………ルキアは?」
「…先に帰らせた」
「……そう、か…」
会話が途切れる。何時もなら途切れても居心地は悪くなくて逆に良かった。だけど、今は凄く居心地が悪い。いや、今は一護と居たくなかった。
「……一護、」
だから、俺は
「……忘れもんしたから、」
嘘まで付いて――
「……先に…帰っててくれ」
――――――離れたかった。
「―――っ」
「………嘘、なんだろ…」
「………!」
分からないようにバレないようにと冷静に離れようとした。何も感ずけるものなんて無かった、けど…
踏み出した俺の腕をきつく掴んだ一護の目は全てを見透かしていた。
「忘れもんしたんだよ、」
それでも、離れたい。今は何処かへ行かせてくれ、何故止める?掴まれた腕を引き剥がそうにも力が強い、うまく剥がれてはくれない。
「……い…ちっ、…ご!!」
キツくなる力に痛みが沸いてくる。それに俺は焦りからか声をあげるも離してはくれなくて、
「――はな、せ!!」
「――――!」
バシッと勢い良く一護の手をはたけば驚いた顔をした一護。嗚呼、やってしまった。と後悔しても既に時は遅いのだ
「……悠輝、明日…」
「……行かない。」
「……なんで、だよ…」
切なそうに顔を歪ませる一護はそっと俺の肩に手を掛けた。だけど、やっぱり行きたくなかった
「……行かない、」
「…………もう、勝手にしろ」
行かない、それを何度も繰り返してきた。何度も何度も、
だから今回もいけると思っていた。だから何も言わなくて、だけど一護はゆっくりと口を開いた。
―――――発せられた言葉は自分の胸へと深く刺さったのだった。
end
(20111215)