「…悠輝、よせ!」
「……大丈夫だ、ルキア」

後ろにいるルキアが声をあげる。だが退くわけにもいかない、大丈夫だと言い聞かしもう一歩前へでる。うっすら、とあの声が頭に響いた。


醒のうねり




《………お前は》

あの時聞こえた声はまたゆっくりと俺の頭の中に響いた。酷く懐かしいこの声が、

《……助けた…いか…?》

頭の中の問い掛けに勿論だ、と返す。すると頭の中の声はまたゆっくりと語り掛ける。俺がこれから先この今与える力で苦しんでも良いのか、と。

深くはわからない。確かに心は止めろ、と叫んでいる。けれどこのまま見ている訳にもいかないんだ、大切なものを守る為に。仕方のないものだ。






「はああああっ!」
「……な、」

目の前にあるのは大きな虚、それに俺は駆け出し蹴りを食らわす。自分でもわからない程身体の動きが早くまるで自分じゃあないようだ。

「…てめぇ!―――がはっ!!」


相手に隙を与えまいと何発もの蹴りを食らわす。これなら行ける……!



「―――――な、―…ぁ!!」


蹴りを食らわすほんの数秒で異変は起こる。ぐらり、と視界は歪み勢い良く俺は地へと倒れるが虚は俺の異変にすぐに気付き大きな手が俺の身体を握り締める。

「……い゙っ!!」
「…悠輝、ぐっ…!」

ルキアも捕まり絶対的なピンチだ、ギシギシと強まる手の力にうまく息が出来ない…


が、途端目の前に拳が飛んで来て虚を勢い良く殴り飛ばした。

「…げほっ、チャ…チャド!?」
「あ、当たった……のか?」

殴り飛ばしたのは先ほどまで俺達が追っていたチャドだがまさか虚を素手で殴り飛ばした事でルキアが顔色を変える。


「「…………」」

が、虚は殴れても虚は見えないようで何もない場所で豪快に腕を振るチャド。

「何だよ、紛れ当たりかよ。見えてんのかと思っ―――――ぶえっ!!!」

「……よし、当たった。」

虚の言葉の途中で見事チャドの拳が当たり思い切り飛ぶ。きっと虚の姿を見る事は出来ない筈なのに平然立ち向かえるのはチャドくらいだろう。

「…くそ、!!」
「――――な、飛んだ!!?」

虚は立ち上がりばさりと翼を広げ空に舞う。これでは流石のチャドも届かない。


「…おい、チャド!」
「ボーっとするな!逃げろ!奴は飛んだ…!」

未だ状態が分かりきっていないチャドにルキアが逃げろと口にするが次は何とどっちの方向だと聞きまさかの電柱を持ち上げた。

「…さあ、どっちの方向だ?」
「…そ、そのままだ!そのまま振り下ろせ!!」

バン…!と痛々しい音が鳴り響き虚が倒れる。ひとまずは安心と言うわけだがどうも嫌な予感がする。

「さあ、観念しろ。じき貴様を片付ける奴が此処へ来る」

ルキアの言葉に先ほどまでやられていた虚は妖しく笑い出す。ルキアの問い掛けにも答えずひとしきり笑えばにやりと笑みを浮かべ振り返る。

「全く、そんな事だからあんたら死神はどいつもこいつも俺達に殺られちまうんだぜェ!!?」

「―――――――っ!!!」

虚の言葉の後の瞬間べたり、と勢い良く背中に何かがのしかかり地へと身体が押さえられる。どうやらこの虚の仲間のようだ、

「へへへっ、形勢逆転ってやつだなァ?」

「……くっ、」

チャドもルキアも押さえつけられ身動きが全くとれなくなる。もがくがやはりびくともしない、

「さあて、どれから喰ってやろうかなァ。やっぱ男は後で…」

「…うおぉおぉぉおっ!!!」


余裕の虚は突然のチャドの声に言葉を止めるがチャドは力だけで上に乗る気持ち悪い生き物を払いのけ流石の虚もかなり慌てる。

「チャド!俺とルキアの上を蹴ってくれ…!」

自由になったチャドに頼むと勢い良く蹴りを入れ上にいた生き物は簡単に落ちる。それを見てはさらに焦る虚はまた空へと舞う。このままじゃ埒があかない、とルキアはチャドにある提案を口にした。



「……転入生、本当にこれで行くのか?」


ルキアを抱えるチャドは心配そうに俺へ目を向けて来たがルキアの考えだ。きっと大丈夫だろう、

仕方ないと言うようにルキアを投げるチャド、ルキアは物凄いスピードで空に飛んでいる虚へ向かうが、

「…な、チャド!ルキアを!!」
「…ああ、!」

虚の仲間から吐き出されたものに当たり落ちるところをぎりぎりチャドがキャッチするがルキアに付いているのは紫色をした蛭のようなもので取ろうと引っ張るが全く取れない。

「そいつは簡単には外れねェぜ、しかもそいつは俺の標的よ!」

「―――――ぐあ゙っ!!」
「―――ルキア!!!」

にやりと笑った虚は自らの舌を鳴らした途端ルキアに付いた蛭がバン、と爆発をしルキアは倒れる。

「な、何が起きた…?」
「………ゔ」

血が流れるルキアにチャドは驚愕したような表情を浮かべる。虚から言うとあれは小型爆弾らしくあの虚の舌から出る音にのみ反応し爆破するみたいだ。

「…チャド、」

ルキアの異変にチャドが立ち上がる。だが虚はにやりと笑いながらチャドが大切にしていた鸚哥を出す。案の定チャドは驚きで動きが止まる。

「さあ、あんたらと遊ぶ時間だ。」

「………な、に…」

鸚哥の籠にはあの爆発物がくっ付いてる。それにルキアと俺がチャドから離れ逃げ回れと口にした虚。くっ、と俺は拳を握り締める。

end