「一護、悠輝ちゃん、大変だ!チャド君が病室から消えた…!」
「……え、」
朝、制服に着替え朝ご飯を口にしようか、とした瞬間慌てた様子で入って来た一心さんの言葉に固まる。チャドが病室を抜け出した?俺は慌てて家を飛び出した。
能力の覚醒
「…はあ、はあっ」
慌てて家を飛び出したから一護やルキアを置いてきてしまったがあの二人もきっとチャドを探すだろう、
取りあえず今はチャドを探さなくてはならない。
「……虚はチャドを狙ってる」
あの大きな傷を負ったチャド、普通の人間なら死んでるか、良くてギリギリ生きているかだがあんな虚の攻撃を二度も食らえばチャドだって危ない。一刻を争うぞ、
虚の気配は探れないから小さいが感じる鸚哥に憑いていた霊の気配を辿ることにし、歩き出す。
きっとチャドのことだ、何かあるに違いない。ぐっと拳を握り締め足の速度を速めた。
* * * *
「……悠輝!」
「…一護、ルキア!」
あの後結構走りながらいると後ろから一護とルキアが走ってくる。きっと二人もあの鸚哥に憑いている霊の気配を辿って来たのだろう、一護は俺の横まで来たかと思えば何故か物凄く怒鳴られた。
「お前、一人で走って行くんじゃねぇよ!危ないだろ!!」
「…な、別に俺は心配で…」
「こっちの身にもなれよ…!」
「………わ、悪い」
凄い形相で言われ素直に謝るとそっぽを向かれた。一体何なんだと言うんだ、
「…あ、チャド!」
「……居た!って馬鹿、何で逃げるんだよ!!」
走ること10分くらいでチャドを見つけるが俺たちを見た途端逆方向に走り去るチャド、逃げる理由は分からないが逃がす訳にもいかない。
速度を上げようとするが途端聞き慣れた声に足を止める。
「…夏梨…?どうしたんだよ、お前ふらふらじゃねぇか!」
一護を呼び止めたのはふらふらな夏梨だった、確か朝に遊子が夏梨は具合が悪いと言っていた。苦しそうに座り込んだ夏梨を支える一護、
「一護、貴様はそいつを一旦家に連れて帰れ。奴は私と悠輝が助けに行く」
「一護、夏梨を頼むぞ」
「…な、何言ってるんだ!」
ルキアと俺の言葉にそんな訳にはいかないと声を発しようする一護にルキアが虚との戦いの中で気が散っては困ると口にし一護を黙らせる。
「……ルキア、お前虚と戦う力戻ってないんだろ?それに悠輝、お前は一般人だ、虚を倒すなんて事出来ないんだぞ?」
黙る一護に背を向け歩き出そうとした瞬間夏梨の傍で一護が口にした。確かに戦う力なんてものはないがこのまま放っておくことも出来ない。
「…あんまり、無茶すんなよ」
「戯け、私が貴様に心配されるようなヘマをする訳無かろう」
「それに、そんなに心配しなくても大丈夫だ、夏梨頼むな」
一護の言葉に笑って返すとうっすらだが小さく笑う一護の顔を最後に見てルキアと走り出す。
「……チャド!」
「……っ、っ!」
走り出してから直ぐにチャドを見つけるが余りの速さに苦戦する苦しそうに走るルキアを横目にチャドの名を呼ぶか振り向いても立ち止まってくれることもしない。それにルキアの息も上がって―――
「良い匂いがするなァ…!」
「「………!」」
途端、声が聞こえゆっくりと姿を現す。奇妙な白い仮面、虚だ。どくり、とまた感覚が蘇るかのように俺の身体を渦巻く。やはり、前から思っていたがこの感覚が出る時は決まって虚が出る。
「アンタ等、すげー上手そうな匂いだ…。喰わせてくれよ、その魂!!」
「…避けろ!!悠輝…!」
「…ああ!!」
虚の攻撃にルキアと共に避けて距離をおく。それを目にした虚はにやり、と妖しく笑う。
「へぇ、一発で死なねぇか。それにアンタ等俺が見えてるみたいだしよォ…一体何…!」
虚が話終わる前にドゴッ!と強烈な音が響く。音の原因はルキアがまさかの虚に蹴りを食らわせたからだ。軽い身のこなしで虚の背後に回るとすっ、と構え口を開いた。
「"君臨者よ!血肉の仮面、万象、羽搏き、ヒトの名を冠す者よ!真理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!!破道の三十三、蒼火墜!!」
長い言葉をすらすらと口にし上手く鬼道とか言うものを放てたルキアだが煙は晴れ当たった筈の虚は無傷だ。
「……な、」
「へへ、今の術知ってるぜ…死神の術だ!そうだろ?だけどアンタのは弱いな!スカスカだ!」
「……ルキア、」
きっとルキアのことだ。死神の力が少しでも回復しているだろうと予測し放ったが戻っていなかったのだろう。
あの虚はどうやら鸚哥に憑いている霊を成仏させに来た死神を二人程食べたらしい。だからあのルキアが放った鬼道とかいうものも知っていたのだろう、
「貴様はどうやら、その餓鬼をしつこく追い回している様だな。何故だ?」
「さてね、アンタが大人しく俺に喰われるなら教えてやるよ、」
「…貴様…!」
にやり、と笑みを浮かべルキアを喰おうと近付く虚。今ルキアは戦えない、一護も居ない。だから、
「…悠輝!お、まえ…」
「ルキア、下がっとけ」
ゆっくりとルキアの前へ出てルキアを庇うかのように立ちはだかる。すると先ほどまでルキアを見ていた虚がその目線を俺へと変えた。
「…お前は変わった匂いがするなァ、けど美味そうだ。…そこの死神を喰ってからお前を喰ってやるよ、」
「馬鹿言うな、ルキアも俺もお前なんかに喰われてたまるか」
「はっは、言うねえ。だが、ただの人間が俺を傷付ける事も出来やしない。」
そう言って豪快に笑う虚、俺だって出来るなら一護もルキアも守ってやりたい。誰も傷付かないように、もう苦しまないように――――――
そう、誰も――――――
「――――傷付けさせない」
それは守り抜く為なのか、破壊の為なのか、少女は赤く眼を光らせゆっくりと覚醒する。
end