「……一護!」

着いた時には一護は井上さんの家から放り出されあの虚に地に叩き付けられていた。当の井上さんはあの虚の手の中で苦しそうにもがいている。


真実をで隠す


「…悠輝、」
「…一護!おい、一護」

地に倒れた一護に慌てて駆け寄る。ルキアも俺の存在に気付き一護に駆け寄る。井上さんはあの中で虚と共にいる。

「ルキア、一護を頼む」
「…悠輝、まさか…!」

立ち上がり一護をルキアに任せ俺は井上さんの家へ上がり込む。後ろからはルキアが俺を止めようと声を上げているが足が止まらなかった。


「…井上さん!」
「……雪、伊…さん」

井上さんの部屋へ勢い良く上がり込み井上さんを確認する。目の前には虚に肩を掴まれている井上さんが居た。虚も俺の存在へと気付く、

「…井上さんを離せ」
「織姫は俺の物だァァア!!!」

でかい手が俺へと伸びそれを避け近くにあるものを片っ端から投げつける。その隙に何か刃物のような尖ったものはないか、と探し回っているとハサミが見つかりそれを手にする。

「そんなもので俺を倒す気か?」
「…やってみないと分からないだろ!」

勢い良く駆け出し虚の腕へとハサミを向ける。そのハサミは腕へと刺さり虚は声を上げる。

「貴様…っ、!」
「……っ!!」

痛みでもがく虚は長い尾で俺を叩き付ける。凄まじい力に簡単に飛ばされた俺は壁へ激突し倒れる。

「雪伊さん…!」

井上さんの声が聞こえてゆっくりと頭を上げる。すると近付いてくる虚、きっと喰う気なのだろうと俺は慌てて身体を起こそうとするが思うように起こせない。

「待って!雪伊さんを傷付けないで…!」

「黙れェ!!誰のせいでこうなったと思っているんだ!!?」

井上さんは俺の前へ来て虚を近付けまいとする。だがそれが苛立ったのか虚はあろう事か目標は井上さんへと変え井上さんの首を締める。

「…お前から殺してやる!!!」


「ああ゙っ!!い゙あああああ!!」
「…いっ…のう…さ…」

苦しむ井上さん、どうにかして止めさせないといけないと俺は声を出すが思うように出なく身体はまるで重い岩を乗っけたように動かない。

―――――もう、駄目だ。そう思いかけた時何かを切り裂く音と聞き慣れた声が聞こえた。


「やめろ…!!」
「…っ…いち、ご…!」

間一髪で虚から井上さんを助けた一護だが額からは大量の血。それを目にし俺は自分でも分からない内に立ち上がり一護に駆け寄る。

「…悠輝、お前…!」
「大丈、夫か?…一護、」

今思えば腕からは血が流れていた。きっと左頬に付いている液体も血だろうと頭の何処かで理解する。

俺を見た一護はくっ、と歯を食いしばり俺を座らせ立ち上がる。

「…てめぇな、兄貴ってのがどうして一番最初に生まれてくるか知ってんのか…?」

ぼー、と一護と虚を見る。頭が思うように動かなかった。

「後から生まれて来る、妹や弟を守るためだろうが。それを兄貴が妹に向かって殺してやるだなんて……死んでも言うんじゃねェェエ!!!!!」

「煩い…!!!織姫は俺のものだ!」

飛びつくように此方に向かって来る虚を一護が止めなぎ払った。たが虚は外へと逃れそれを一護が追いかける。それに続きゆっくりと俺も立ち上がり出来るだけ早く追い掛ける。あの声が聞こえても何も出来ない無力だと実感しながら、

「うあ゙っ!!!」
「………っ一、護!!」

迷いで斬り損ねた虚は一護を攻撃しようと突っ込む。走るが間に合わない、凄まじい音が鳴り響くがそれは一護のものではなかった。

「…井上、さん」

一護の前に飛び出て身体を張った井上さんは肩から大量の出血をしていた。たが虚の頭を優しく抱き締め今までの事をゆっくりと話し出した。

何時もあの井上さんのお兄さんが見ていた事もこの間車に跳ねられそうになった所をお兄さんが助けた事も、何時までも甘えていたら駄目だから私は幸せだから心配しないで、とお兄さんに伝えたかった事も全て。


全てを知った虚は自らの中の虚と戦った。彼が虚となったのは自らでは無く強い虚に飲み込まれ俺と一護を狙うその虚に操られ、一護の戦いずらい魂を取り込み差し向けた。

井上さんのお兄さんが虚となったのは俺達のせいだと改めて実感する。

だが、井上さんのお兄さんは己の虚と戦いその仮面は綺麗に砕け散った。

―――――たが、ルキアが言うには一度虚になったものは二度と戻る事は不可能だ。

力無くし倒れた井上さんをルキアが処置する。その様子をお兄さんは心配そうに見守るが井上さんが付けているヘアピンを見ては目を伏せた。

そして何かを決意したようにそっと立ち上がり一護の斬魄刀を取り己の手で握り締めた。

「おい…!」
「……何れまた怪物に戻ってしまう。だから今、少しでも正気を保っている間に消えておきたいんだ」


そういって斬魄刀を首に差し向けるお兄さんに一護は止めようと声を発するがルキアに止められる。

虚を斬ると言うことは罪を洗い流し尸魂界に行けるようにしてやる事だとルキアは言った。

それを聞き一護は黙りお兄さんはゆっくりと斬魄刀を近付けたが「待って、お兄ちゃん」と弱々しくもはっきりした声が聞こえた。

「…お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

「……ああ、行ってくるよ」

涙を流しながら井上さんは別れをするとお兄さんはゆっくりと微笑んで己の身体に斬魄刀を差し込む。するときらきら、と光の粒になり空高く消えていった。



事は終わり、帰ろうかと思い始めた時ボン!と音が鳴り何事かと音が鳴ったであろうルキアへ目を向けると煙が出てこてん、と井上さんは気を失っている。

「……ルキ、ア…何を?」
「…記憶置換だ。今夜の事件の記憶を消して替わりを入れておいた。」

「…記憶置換!?」
「まあ、入れ替わる記憶がランダムなのが偶にキズだが分からなければ明日まで待て」

そう言いながらもう一人にも記憶置換とか言うものをしその場を後にした。







* * * *


「本当に部屋に横綱がきて鉄砲で壁に穴開けたの!」

「「…………」」

次の日の学校の昼休みに井上さんが昨日の出来事を話していた。あの昨日の記憶置換はどうやら横綱が部屋に入ってきて鉄砲で壁に穴を開けたらしい。

「…無理ありすぎだろ、あれ」
「……ああ、」

一護と俺は不満があるが至ってルキアは気にも止めない。

「…お前、この間うちの連中にも使ったろ」
「…ああ、使った」

それを聞きはあ、とため息を吐いた一護だったが途端真面目顔へと変わりルキアに死神の仕事を手伝わせてもらうと口にした。それを最初はきょとんと聞いていたルキアだったがふっ、と小さく笑い宜しくな、と口にした。

自分はただそれを見ているだけしか出来なかった。一護の仕事を手伝う事も何も出来なかった。

end