―――――息を呑んだ。

呼吸は荒く、きっとこれは酸素が薄いからなんだと頭の何処かでぽつりと呟いた。はあ、はあ、と繰り返される呼吸は只懸命に目の前の酸素を吸い込んだ。


「……また、だ」

吹雪で辺りが上手く見えなくなる中で最後の力を使い切り倒れた仲間が目に映る、負けたんだと理解するにはそれが充分だった。身体が凍ってしまいそうな感覚に陥りながらも倒れた仲間に近寄りそっと撫でれば申し訳なさそうにうっすらと開けていた目をゆっくりと閉じた。


「……ありがとう、久永」

目を閉じた久永にお礼を述べボールへと返す。他のボール内にいる仲間も力尽きていて、ゆっくりと目線を前へと向ければ無言の赤。あの人もまた自分の仲間にお礼を言うとボールへと返しゆっくりと目線を此方に向けた。


真っ赤な瞳は冷めているようで、何も見えない。只、絶大な力を秘めていることがわかった。あの人に見られるだけで身体中の血液と言う血液が逆流したようでばくばくと相手にも聴こえているような心臓音が鳴り響く。何なんだろうか、前と変わらないこの感じは…一体、


「…やっぱ、かなわないよ」


――悔しくて、仕方なかった。ずっと俺はあの人に勝つために仲間と共に、特訓した。あの人に勝って、認めて貰うために。だから、俺はありとあらゆる場所へ出向きそこのチャンピオンを超え…将又、トップコーディネーターと言うものさえもこの手に掴んできた。なのに、




…キア、と小さく自分の名前を彼の声が俺の耳を掠めた。とても懐かしくて、暖かい。悔しいはずなのに嬉しい。その声にゆっくり、と下げていた顔を上げればいつの間にやら縮められていた距離にどきり、と心臓が鳴る。

「…レ、ッドさ…」

「…強くなった」


われものを扱うかのようにそっと抱き締めてくれたレッドさん。ふわり、と鼻を掠める香りが心地良い。また少し身長が高くなったのか、すっぽりと埋まってしまった自分の身体、


全てに涙しそうだった。嗚呼、やっぱり自分はこの人が全てなんだと、改めて理解する。チャンピオンになったこともトップコーディネーターになったことも、全てはこの人に繋がる


「レッド、さん…」

「……」

縋りつくようにレッドさんの胸へと顔を埋めれば、何も言わずにわしゃわしゃ、と昔と変わらないように優しく撫でられたのだった。


錯綜する想い (20120807)