「新入生代表、奥村雪男!」

奥村雪男、と言われる人は名前を呼ばれると力強い声で返事をし、この大量に人が居る前で緊張している筈なのにはきはきとした物言いで話し出した。入試も何もしていない俺だけど、新入生代表ってきっと入試トップの人だ。自分とはまるで違う、同じ年齢かとも疑う程だった。

自分の目の前に座る女子が何やら奥村君を見てひそひそと何やら話している、モテるんだな…そりゃあ見るからに優しそうな雰囲気してるし。なんて思いながら欠伸を噛み締めた。







「…学校は明後日から、か」

教室で担任の意外にも短い話が終わりみんなバラバラになって寮に戻ってゆく。その中塾が今日からある為先ほどメフィストさんから頂いた"塾の鍵"を手にし適当に選んだ扉に鍵で開けてみれば一風変わった廊下が現れた。

「…え、なにこれ…すげ…」

唖然としつつもメフィストさんが言っていた教室を探せば意外にも早く見つかった。扉を開ければ教室だと言うのに妙な緊張が俺を襲うがどうにか気合いでゆっくりとその扉を開ける。


ギィィ…と古びたような音と共にすんなりと開かれた扉から見えたのは学校とは大違いな汚さに唖然とする。教室内には七人くらいの生徒であろう人が居たが何とも少ない。まさかこれだけなんてあるんだろうか?いや、俺からすれば少ない方が色々とやりやすいんだけども。

それから適当な机に座りゆっくりと周りを見渡してみる。可愛らしい女の子が二人に人形遊びしているのが一人、坊主の眼鏡が一人にピンク頭が一人、…それと何だかもう目つきが怖すぎる鶏…?が一人と顔がフード被され分からないのが一人とまあ…個性は皆さんあるがやっていける気がしない。挙げ句男子が多いと来た、


どうしようか、辞めるか?なんて選択肢が俺の頭の中を巡った瞬間、ギィィ…とまた扉が開く音がし目をやる。女の子かな?なんて期待をしたがそれは一瞬にして打ち砕かれた。

「少な…!」

机に腰を降ろしながら犬を連れた男子が口にする。犬なんて連れて来ても良いんだろうか?確かにまあ…可愛いが。それに何か会話して…るのか?いや、そんな訳ないか。犬と会話なんて電波以外何者でもない


でも、只単に男子が増えただけと言うことで俺が危ない。あの犬を連れてる奴とかはまだ良いがあの鶏みたいな男子と後の二人にでもカツアゲでもされたらどうしよう。今、俺は男子な訳だし女子扱いなんてされる訳がなくて…と言うことはこんなひょろい奴ほど恰好の餌だ。辞めるべきなのか?と本当に真剣に考え出した頃、先生らしき声と共に扉が勢い良く開かれた。


「…え、」

「席に付いて下さい、授業を始めます」

だが、その先生らしき人にまたしても唖然とさせられる。先ほどの生徒とは打って変わり先生らしい姿で登場された奥村君、…失礼だが何かの間違えなんじゃないだろうか?

「初めまして、対・悪魔薬学を教える、奥村雪男です」

「………」

間違えじゃない…。突然のことながら吃驚して物も言えないと言うか同じ年齢で学校は同級生だけど塾では先生、となるとこれまた面倒なことこの上ない。ため息を吐き出したい気持ちになったが途端、あの犬を連れている男子が驚いたように席を立ち明らか動揺している。下の名前で呼んでいたし、どうやら知り合いなのだろうか?

「お察しの通り僕は皆さんと同じ年の新任講師です。…ですが、悪魔祓いに関しては僕が二年先輩ですから塾では便宜上"先生"と呼んで下さいね」

間近で見たことが無かったが何やら奥村…先生は黒いようでそれまた笑顔で鋭い言葉を吐くようだから怒らせないようにしよう。何かのジョークだと思ったが違うようだし、何より口にしなくて良かったと内心で思った。


「まず、まだ魔障に掛かった事のない人はどの位いますか?」

手を挙げて下さい、と丁寧に奥村先生は口にする。だが手を挙げる必要がない俺はゆっくりと自分の右肩を抑える。魔障、自分はこの右肩に受けた、今も時々痛むが大したことは無く普段通りに過ごせてはいるがどうも心配で堪らなかった。藤本さんが居なくなってしまったからだろうか…


「ふざけんな…!」

「…、!」

ぼう、と意識を飛ばしていた俺の耳に大きな声が入った。どうやら声の主はあの犬を連れた男子で怒りは奥村先生にあるみたいだ。何やら二人して話していたが犬を連れた男子が奥村先生の肩を掴んだ瞬間、手から何かが滑り落ち地面に落下したと思えば途端何とも言えない臭さが俺の鼻を掠めた。その瞬間だった。


「…悪魔!?」

ドカッ、と凄まじい音が天井からしたかと思えば現れた気味の悪い生き物、悪魔だと分かるのに時間は掛からなかった。凶暴化したのか悪魔は誰彼かまわず襲い掛かろうとするもののそれは奥村先生の銃により阻止された。

上手いことに的確に放たれた銃弾は小鬼と言われる悪魔に的中する。

「教室の外に避難して!」

手際良く奥村先生が生徒を教室の外に避難させ残りあの犬を連れた男子だけとなったその時、何を思ったのか乱暴に足で扉を閉めてしまい残された生徒は只唖然とするしかなかった。